セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズの多彩でイノベーティブな事業は、一見関連がなさそうな航空宇宙分野の材料設計技術から生み出された。
「いびきがうるさい」―。いびきの犯人に向けられる視線は冷たい。しかし、いびきは周囲の安眠だけでなく、時にその人の健康をも奪う悪魔の呼び声になる。睡眠時無呼吸症候群(SAS)に伴ういびきは、心筋梗塞など多くの生活習慣病との関連が疑われ、8年間状況を放置した重症患者の死亡率は3人に1人とさえ言われている。
このいびき治療に革命をもたらす“次世代の医療機器”が生まれた。セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズの「ナステント」だ。直径5mmのシリコンゴムチューブを鼻腔に差し込んで気道を確保し、睡眠時のいびきを止める。使い捨ての鼻腔挿入デバイスだ。
「私たちは“いびき患者”が健常者並みの血中酸素濃度を確保するためには直径5mmの穴があればよい、というシンプルな結論に至りました」と阪根信一社長は話す。ナステントは、日本での市場規模として1,000万人を見込んでいる。
同社は、シリコンバレーで2011年に創業した、航空宇宙分野の技術開発に端を発する企業だ。ナステントは「最先端の高度な測定・材料設計技術によって、人間のいびきのメカニズムを解明しながら生まれた、同分野のディスポーザブル製品において実質的に唯一の医療機器」(阪根社長)である点が特徴だ。
阪根は当初、シリコンバレーでVCを訪ね回った。世界最先端の地のVCから、ナステントの評判は上々だった。しかし、ナステントの他に「カーボン・ゴルフ・シャフト」をはじめ、創業時から3つの事業を構想していた阪根に投資を決めるVCはなかった。なぜなら、シリコンバレーでは一点突破型のスタートアップこそが美徳とされているからだ。こうした阪根のスタイルをポジティブに捉えたのは、日本のVCと事業会社だった。同社は2015年6月、東京大学エッジキャピタル(UTEC)、KISCO、全日空商事、四条、新生銀行などから15.2億円を調達。UTECの坂本教晃プリンシパルは「VCは前例を否定する仕事」という哲学のもと、この前例のない“三兎を追うベンチャー”に投資を実行した。
「私たちの投資理由は、起業家としての阪根社長の徹底したユーザー目線をベースにした技術開発力と、イノベーションを測定技術から起こそうとする視点でした。グーグルの『ページランク』を見ても明らかなように、測定から変えることはイノベーションを起こすためには不可欠です」
3つ目の事業はいよいよ10月にお披露目する。この男は本当に三匹の兎を捕まえてみせるのかもしれない。