神奈川県・藤沢駅からほど近い場所に拠点を構える株式会社ギグー。
一見すれば、ごく普通のSES(システム・エンジニアリング・サービス)企業に見えるかもしれない。だが、その内実は、いまIT業界の常識を書き換えつつある。
同社はわずか2年で社員数を約7倍に拡大。しかもその成長は、資本注入や大型M&Aによるものではない。人材戦略と経営の再設計によって積み上げられた、極めて地に足のついた成長だ。
その中心に立つのが、上田剛史氏である。もともとはギグーに業務委託として関わる立場だった同氏は、2024年、自ら8000万円を投じて同社をM&Aで買収し、代表取締役に就任した。
社員が会社を買い、経営を引き受ける。しかも、IT未経験から業界に飛び込んだ人物が、その意思決定を下す。
この異例のキャリアパスは、単なる個人の成功談にとどまらない。なぜ彼は、あえてリスクを背負い、経営者になる道を選んだのか。そして、現場出身の経営者は、SESというビジネスモデルをどこまで進化させられるのか。ギグーの成長の裏側には、日本のIT産業、ひいては日本企業の未来を読み解くヒントが隠されている。
「1円で何でもします」から始まった、社長への最短ルート
上田剛史氏のキャリアは、一般的なIT経営者のそれとは大きく異なる。
高校卒業後、同氏が最初に身を置いたのは、ラーメン業界だった。10代で現場に入り、21歳で最年少店長に就任。その後はエリアマネージャーとして、複数店舗の運営と人材管理を担ってきた。飲食の現場で叩き込まれたのは、数字への執着と、人を動かす難しさ、そして顧客体験を起点に事業を考える姿勢だった。
一方で、業界全体にIT化の波が押し寄せる中、アナログな業務プロセスが変革されていく様子を目の当たりにし、「次はこの変化の当事者になる」と決意する。IT未経験のまま業界に飛び込んだ上田氏が選んだ入口は、極めて異例だった。
クラウドソーシングサービス・ランサーズに「1円で何でもします」と登録し、案件を受け続ける。その姿勢が評価され、業務委託としてギグーに関わるようになると、組織改善や事業推進の中核を担う存在へと急速に存在感を高めていった。
やがて副代表に就任。そして2024年10月、上田氏は自ら8000万円を借り入れ、株式を取得。会社をM&Aによって引き継ぎ、代表取締役に就任する。社員として現場に入り、経営中枢を担い、最終的には資本を引き受けて経営者になる。
この一連のプロセスは、偶然の積み重ねではない。「会社を経営する覚悟が固まった瞬間に、選択肢はM&Aしかなかった」と語る上田氏の歩みは、まさに社長になるためにM&Aを選んだ男という表現がふさわしい。
この異色のキャリアこそが、ギグーの経営思想と成長戦略の原点となっている。



