ビジネス

2026.01.20 11:15

会社員が8000万円で会社買収──7倍成長を遂げたギグーの逆転劇

左:同社代表上田CEO

ブラックボックス化したSES構造に、透明性という解を示す

SES業界では、依然としてエンジニアの報酬体系や契約単価がブラックボックス化しているケースが少なくない。多重下請け構造の中で、エンジニア本人が自らの価値や市場評価を正確に把握できない状況は、長年、業界の構造的課題とされてきた。

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ギグーでは、こうした慣行を前提としない。同社はエンジニアに対し、案件単価、還元率、会社が負担するコスト構造までを含めて開示し、透明性を制度として担保している。

これにより、報酬は「会社から与えられるもの」ではなく、「事業の成果を分かち合うもの」として再定義されている。

同時に、商流の健全化にも継続的に取り組んできた。大手SIerや事業会社との直接契約を増やすため、短期的な売上最大化を優先せず、毎月のエンジニア数や稼働状況の推移を顧客に共有し、組織としての成長性と安定性を可視化してきた。

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この地道な情報開示の積み重ねが、信頼の蓄積につながり、結果として直接取引比率の上昇をもたらしている。価格競争ではなく、組織として選ばれる存在になる。その戦略は、後発企業であるギグーにとって、最も合理的な成長ルートだった。

「後発だからこそ、旧態依然の慣習を疑うことができた。

自分たちが納得できない仕組みの上に、持続的な成長は成り立たないと思っています」

透明性をコストではなく競争力と捉える姿勢。

それこそが、ギグーがSES業界の中で独自のポジションを築きつつある最大の要因と言えるだろう。

140名のエンジニアを集めた社員総会
140名のエンジニアを集めた社員総会

精神論では終わらせない。「誰よりも働く」経営者の実装力

上田剛史氏の経営哲学は、極めてシンプルでありながら一貫している。

それが「誰よりもまず、自分が一番頑張る」という姿勢だ。

この言葉は精神論に聞こえるかもしれないが、同氏の行動は常に具体的だ。現場に最も近い場所で意思決定を行い、数字と実務の両方に責任を持つ。
 
経営者として距離を取るのではなく、あえて責任の最前線に立ち続けることで、社員に「この会社は簡単には揺らがない」という安心感を与えてきた。また、上田氏のマネジメントにおいて特徴的なのは、感情による統制を行わない点にある。

必要な場面では事実とロジックをもって率直に伝える。 評価基準や期待値を曖昧にしないことで、社員は自らの立ち位置と成長の方向性を理解できるよう設計されている。

「ギグー式SES」から業界の新しいスタンダードへ

ギグーの事例が持つ本質的な価値は、急成長や異例のM&Aという表層的な話題性にとどまらない。それは、日本における企業成長と事業承継の新しい回路を示している点にある。

若い世代の社員が、現場で培った理解と覚悟をもってリスクを引き受け、経営主体として企業を引き継ぐ。そして、組織を再設計し、収益性と人材投資を両立させながら成長軌道へ導く。

 この「内部人材によるM&A」は、人材不足、後継者難、生産性停滞という日本経済の構造課題に対する、極めて実践的な解答の一つだ。

企業が外に売られるのではなく、中から引き継がれ、成長する。その循環が生まれれば、雇用も技術も国内に残り、企業は単なる存続ではなく進化を選ぶことができる。日本の再成長に必要なのは、こうした覚悟ある資本移動と、それを支える金融・制度・社会の理解だろう。

ギグーの逆転劇は、まだ例外かもしれない。

しかし、この例外が各地で積み重なっていくとき、日本のM&Aは「縮小のための手段」から「成長のための装置」へと意味を変える。

その転換点に立つ企業の一つとして、ギグーの歩みは、今後も注視されるべき存在である。

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