現役創業者からの承継という、もう一つの選択肢
買収にあたっては、国の事業承継支援制度も活用された。ただし、このケースが特異なのは、一般的な「高齢創業者の引退型承継」とは本質的に異なる点にある。株式を譲り受けたのは、まだ48歳で現役だった創業者・橘川氏からであり、成長途上にある企業の経営権を、内部人材が引き継ぐという、国内でも極めて珍しい事例だった。
さらに注目すべきは、上田氏が連帯保証を付けることなく、8000万円の資金を借り入れてM&Aを成立させた点である。これは制度の活用だけで実現できるものではない。銀行や支援機関が重視したのは、過去の経歴よりも、「誰が、どのような覚悟で、これから会社を率いるのか」という一点だった。
上田氏は、業務委託として現場に入り、副代表として経営に関与し、事業と組織の内情を誰よりも理解してきた。加えて、社員数の増加、収益構造の改善、成長戦略の具体性といった要素を、数字と計画で示すことで、企業の将来性を明確に描き出した。その積み重ねが、金融機関の評価につながったのである。
「自分が誰よりも本気でやってきたという自負はありました。そして何より、会社や社員に対する責任を、誰かに預けるのではなく、自分自身で引き受けたかった」
上田剛史氏のこの言葉は、今回のM&Aの本質を端的に表している。
それは単なる資本取引ではなく、経営責任を引き受けるための意思決定だった。
若い会社員が、覚悟と計画をもって企業を引き継ぐ。この事例は、事業承継やM&Aが「出口」ではなく、「成長の起点」となり得ることを示している。そしてその可能性を、制度と金融が現実のものとして後押しした点においても、示唆に富むケースと言えるだろう。
経験者採用とデータ経営が支える15%超の利益率
ギグーの最大の特徴は、SES業界では必ずしも主流とは言えない正社員雇用を経営の前提に据えている点にある。 現在、約140名にのぼる社員の大半を正社員として抱え、社会保険料や採用コストといった固定費を意図的に引き受ける経営を選択してきた。
一見すると、利益を圧迫しかねないこの方針は、短期的な効率を重視するSESモデルとは対照的だ。しかしギグーは、人材の流動性を前提とせず、育成・定着を軸に組織を設計することで、結果として稼働の安定性と顧客からの信頼を獲得してきた。
正社員比率の高さは、同社にとってコストではなく、事業基盤そのものと言える。採用においても、同社は量を追わない。経験者を大量に抱えるモデルではなく、経験者に限定した採用戦略を取り、スキル水準と単価のブレを抑える。
加えて、稼働率、案件単価、営業プロセスといった各種データを可視化・分析し、業務全体の効率化を徹底してきた。こうした積み重ねが、営業利益率15%超という、SES業界では例外的とも言える高収益体制を支えている。 人に投資しながら利益を出す──その両立を可能にしているのは、感覚ではなく、数字に基づく経営判断だ。
「採用も営業も、無駄を徹底的に排除しました。だからこそ、社員にしっかり還元できる体制を築けていると思っています」
上田剛史氏のこの言葉は、ギグーの経営スタンスを端的に表している。
正社員雇用、人材投資、高収益。その三つを同時に成立させる設計思想こそが、同社をSES業界の中で際立たせている理由だ。


