既存の監視網をすり抜ける手口への対抗と、現金取引報告における基準額の限界
一方、こうした見方に賛同するかどうかは別として、財務省の措置は、金融犯罪の捜査に携わる関係者にとっては見慣れたものでもある。理由は明確だ。資金が国外に流出してしまえば、不正に得られた資金が最終的に誰の手に渡ったのかを特定することは格段に難しくなり、回収は困難になるからだ。
銀行や送金サービス事業者には、不審な取引を監視し、当局に報告する義務がある。ただし、通常の報告基準額では、捜査当局が資金の動きを十分に追えない場合がある。とりわけ、不正行為者が発覚を避けるために、多額の送金を小口の取引に分割した場合にその傾向は顕著だ。
現在、銀行を含む金融機関は、1日あたり1万ドル(約158万円)以上の現金を受け入れた場合、通貨取引報告(CTR)の提出義務を負う。ここでいう「現金」には、米国および外国の紙幣や硬貨が含まれる。小切手や為替手形、トラベラーズチェックなどの一部の金融商品も現金として扱われる場合がある。
CTRには、取引に関与した人物の氏名や住所、納税者番号といった個人情報のほか、取引の日時、金額、内容などが記載される。提出されたデータは、FinCENが収集・管理し、法執行機関や関係当局による違法な資金取引の捜査や起訴に利用される。
現金による送金そのものは、たとえ額が大きい場合でも違法ではない。重要なのは、その資金がどのように国内に持ち込まれたか、あるいはどのように扱われたかを把握することだ。FinCENは、取引の種類ごとに所定のフォーマットを用意し、資金が正しく申告され、課税されるようにしている。この仕組みによって、不正な手段で得られた資金を、正当な資金へと置き換えたり流通させたりすることが難しくなる。また、当局が資金の存在を把握していることを納税者に認識させることで、税務当局への申告が行われやすくなる。
意図的な分割取引を防ぐため、約47万円という少額送金まで監視対象を拡大
1万ドル(約158万円)という基準額は、絶対的なものではない。それよりはるかに小さい額であっても、金融機関が通常とは異なる取引だと判断した場合には、不審取引として報告の提出義務がある。ここには、「分割取引」と呼ばれるものが含まれる。たとえば、大きな額を一度に入金するのではなく、報告を避ける目的で小口に分けて入金するといった行為だ。こうした形で報告義務を免れようとする意図があれば、それ自体が違法行為となる。
ミネソタ州を対象とするGTOは、受取人が米国外に所在する3000ドル(約47万円)以上の比較的少額な国際送金について追加の報告を義務づけることで、捜査当局が資金の動きを把握しやすくすることを狙いとしている。財務省は、多くの詐欺グループが、従来の基準額を下回る形を保ちながら、時間をかけて多額の資金を移動させるよう、取引を意図的に組み立てていると考えている。
FinCENは、複数の銀行や郡にまたがる取引データを集約することで、これまで見逃されがちだったパターンを把握可能になることを期待している。そこには、同一の海外受取人への繰り返しの送金や、同じ送金業者の頻繁な利用、複数口座にまたがる連携した動きが含まれる。
財務省当局者によると、こうした情報は連邦、州、地方の法執行機関と共有され、捜査の迅速化や起訴の裏付け、盗まれた資金の回収につながる見通しだ。


