来場者100万人を超えた二つの転機
コロナ禍以前、恐竜博物館の来場者数は90万人前後で推移していた。それが一気に跳ね上がった背景には、二つの明確な転機がある。
ひとつは2024年、北陸新幹線の開業だ。福井県や北陸への注目度が高まり県外からの来訪が増え、特に、アクセス向上により関東・甲信越からの来訪が大幅に増えた。
もうひとつが、2023年7月の大規模リニューアルである。恐竜の展示は全身骨格50体へと拡充された。なかでも注目を集めたのが「化石研究体験」だ。来館者が研究者の視点で化石に向き合うこのコンテンツは、国際的なデザイン賞も受賞している。恐竜を「見る」存在から「理解し、関わる」存在へと進化させたことが、ファミリー層だけではなく本物志向の人たちも惹きつけた。
恐竜を独占せずオープンに
もう一つ、福井県の戦略で見逃せないのが、新幹線開通を機に観光客の認知を拡大させようと、恐竜を民間企業や県民に解放した点だ。恐竜を県の所有物として囲い込むのではなく、レギュレーションを整備したうえで、誰もが使いやすい環境を整えた。
デザイン素材の無償提供、恐竜ホテルへの補助金制度、駅前空間での恐竜演出。こうした施策により、恐竜は博物館の中だけでなく、商業施設、スーパー、サービス業など福井県内全域へと一気に広がった。
2024年3月にはテーマパーク・芝政ワールド(福井県坂井市)に恐竜をテーマにした大型アトラクションが開設。ほかにも、スーパーやホテル、ディーラーまでが恐竜モニュメントの展示やグッズ販売などを行い、恐竜は「福井の風景」そのものになっていった。
また、県は恐竜をテーマにした地域活性化・観光・教育・商品開発などの活動やアイデアを募集するコンテスト「ディノ・アクション・アワード」を2025年に初めて開催し、斬新な活用アイデアを募集した。80件の応募があり、現在県民投票を実施している。
さらに福井県立大学では、今年度、日本で初めて恐竜学部を開設し、一般入試の倍率は10倍に達している。この4月には恐竜博物館のそばにキャンパスも新設される予定だ。恐竜を単なる「アイコン」とするのではなく、教育や研究とを基盤とし、研究と観光を結びつけている点も、恐竜ブランディングの特徴である。
福井県の事例が示しているのは、「何を持っているか」以上に、中長期の視点で「何に集中するか」が重要だということだ。同県は、研究に投資してきた唯一無二の成果を観光ブランディングへと転換し、恐竜というテーマに絞った。ブランディングで最も難しいのは、尖る決断をすること。「恐竜」は、その覚悟が生んだ、極めて分かりやすい成功例だろう。


