サイエンス

2026.01.21 18:00

鏡に映った自分を認識できる魚、ホンソメワケベラが人間に投げかける謎

ホンソメワケベラ(Shutterstock.com)

自分のサイズを把握していることも判明

『Scientific Reports』に掲載された2024年の追跡研究は、2019年の研究に参加した大阪公立大学などの研究者の一部が、前回の実験で判明した事実をさらに裏付けようとして行なったものだ。

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しかしこちらの研究では、ホンソメワケベラが鏡に映る自分の姿を認識しているかどうかではなく、鏡から得られた自らに関する情報を、その後の判断の指針に用いたかどうかを確かめることが目的とされた。

具体的には、研究チームは体のサイズに着目した。野生の環境では、大半の魚類にとって体の大きさは大きな意味を持つ。それはホンソメワケベラも同じだ。戦いを挑む相手や避ける相手、他の個体との争いの成り行きを特定するにあたって、体の大きさは非常に大きな役割を果たしている。この理由から、研究チームは実験計画を変更し、魚に対して、同種だがこれまで見たことがない個体の写真を見せることにした。これらはそれぞれサイズが異なっており、少しだけ大きなもの、少しだけ小さいもの、ほぼ同じ大きさのものが用意された。

この実験の対象となった個体には、過去に鏡に映る自身の姿を見たことがあるものも、ないものもあった。だが、鏡と写真を同時に見ることはできない状況だった。つまり、写真に写っている個体と自身を比較するには、実験の対象となった個体は、記憶から自身の体のサイズを想起する必要があるということだ。

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この仮説を裏付けるように、以前に鏡像を見た経験のある個体は、鏡像を見たことがない個体とは異なる行動を示すことを、研究チームは確認した。自分より大きな個体の写真を見せられた場合、自身の鏡像を見たことがあるホンソメワケベラでは、攻撃行動が収まった。一方、小さな個体の写真を見た場合は、攻撃行動がエスカレートした。どうやらホンソメワケベラは、相手に勝っている場合と、そうでない場合の区別がついているようだ。

さらに興味深いことに、ホンソメワケベラは、鏡の前に繰り返し戻って来ることもわかった。これは、写真に写った個体にどう対応するかを決める前に、自らの体の大きさをダブルチェックしているように思える行動だ。

これは、高い知性など持たないとおおむね考えられてきた種によるものとしては、信じがたい行動だ。この実験でホンソメワケベラは、自身の体に関する内在化した概念(すなわち、心の中に描く「私」の像)を用いて、他の個体を評価できているように見える。言い換えれば、水槽に置かれた鏡が、ホンソメワケベラが自らの体に関するイメージを構築する手助けをし、さらにこれらの個体は、鏡が自分たちの目の前にない時でも、このイメージを参照していた可能性があるということだ。

これが重要な意味を持つのは、古典的な鏡像テストで定義される領域を越えた能力が示されているからだ。オリジナルのミラーテストは、鏡に映った自身の姿を、自身の体とリンクさせる能力という、認知能力の中でも非常に限定された領域を対象としている。しかし、2024年に発表されたこの研究結果からは、ホンソメワケベラが、他の個体との交流に関係のある文脈で、自身に関する知識を柔軟かつ戦略的に用いるという、さらに進んだ能力を持っていることが示唆されている。

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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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