このテストを支える論理はかなり狭いものだが、それでも説得力はある。テストを受けた動物が、マークに対して適切な反応をするには、鏡に映る像が、他の個体ではなく、自分自身と何らかの形で結びついていることを理解していなければならないからだ(ただし、魚のような、意志を持ってマークに触る機能を持つ四肢がない動物には、このテストに合格することは難しいように思える)。
2019年の研究でホンソメワケベラは、初めて鏡を提示された際に、当初は他のほぼすべての動物が示すのと同様の行動を取った。すなわち、鏡に映った自らの像を敵と判断して攻撃したのだ。しかし、それから1週間のあいだに、この攻撃的な行動は次第に収まっていった。
その後ホンソメワケベラは、明らかに興味を示すようになった。普段とは異なる泳ぎのパターンを示し、繰り返しアプローチし、いつもとは違う角度に体をねじってみせた。注目すべきは、これらの行動がすべて、研究チームが「随伴性を試すテスト」と解釈するものであることだ。つまり、この魚が自らの動きと、鏡の中の個体の動きのあいだに関係があるのかどうかを探っているように見える動きだ。
次に、この研究にとって非常に重要な段階が訪れた。研究チームは、実験対象となる個体に、寄生虫に模した、小さな色付きのマークをつけてみた。ホンソメワケベラでは、他の個体にこうした寄生虫がついていると、それを取り除いてあげる行動をすることでよく知られている。これらのマークは、のど元などの、鏡なしでは直接見ることができない場所につけられた。
このマークをつけられた魚たちは、最終的に再び鏡の前につれてこられると、その多くが、積極的にマークを落とそうとするかのように、水槽の底に置かれていた板状の岩のようなものに自らの体をこすりつけ始めた。さらに決定的なことに、これらの魚は、透明のマークをつけられた時や、鏡が置かれていない時には、こうした行動を示さなかった。
旧来のミラーテストの基準によると、これは「合格」にカウントされる。
実に驚くべきことに、ホンソメワケベラは、チンパンジーやイルカ、ゾウなどの場合と同じ基準を満たしたということだ。この研究結果に対してはすぐに反響が巻き起こった。一部の研究者は、これは魚類の認知能力が過小評価されてきたことを示すエビデンスだとして、この研究結果を歓迎した。だが反面、ミラーテストの提唱者を含む他の研究者は、この結果は魚の自己意識ではなく、ミラーテストの限界を示しただけにすぎないと主張した。
実際、ホンソメワケベラは、魚の体表にいる寄生虫を検知する「プロ」だ。ひょっとするとこれらの個体は、「鏡に映った自分」を認めたというよりは、体の表面についた、寄生生物に似た異物を除去しようとして反射的に反応しただけ、という可能性もある。この実験に批判的な人たちが指摘するように、鏡は魚にとって、異物を見つける便利なツール、という以上の意味はないのかもしれない。というわけで、この研究は1つの疑問に答えたものの、これによって複数の新たな疑問が生じる事態を招いた。


