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2026.01.23 15:00

睡眠時無呼吸症候群の「飲み薬」開発、米FDA承認を目指す新興Apnimed

perthstagedtosell/Shutterstock.com

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睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、日中の強烈な眠気だけでなく、心疾患や脳卒中のリスクを高める深刻な疾患だ。米国だけで患者数は最大8000万人に達するとされるが、治療のハードルは高い。標準治療である「CPAP(シーパップ)」は、就寝中に鼻や口へマスクを装着して空気を送り込む装置だが、その不快感や煩わしさから治療を断念する患者が後を絶たないからだ。

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長年、多くの製薬会社が「マスク不要の治療薬」という悲願に挑んだが、叶わなかった。しかし、この難攻不落の分野で、ついにブレイクスルーが起きる可能性がでてきたのだ。米バイオテック企業Apnimed(アプニメッド)が開発した史上初の「飲み薬」が、最終段階の臨床試験で良好な結果を示し、米食品医薬品局(FDA)への承認申請へ向けて動き出した。評価額4億ドル(約632億円。1ドル=158円換算)をつける同社は、早ければ2027年にも製品を市場へ投入する可能性がある。

ハーバード大学の研究者モンテムーロ医師が偶然に発見、「信じられない気分だった」

2016年11月、ハーバード大学の研究者ルイジ・タラント・モンテムーロ医師は、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の研究室で、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を抱える中年男性の睡眠を観察していた。男性は睡眠中の呼吸停止を確認するため、体中にセンサーを装着した状態でベッドに横たわっていた。モンテムーロ医師は新たな薬の可能性を検証していたが、大きな期待は抱いていなかった。睡眠中に呼吸が止まり、場合によっては酸素濃度が危険なレベルまで低下するこの一般的な疾患に対し、薬で治療しようとする試みは数十年にわたって続けられてきたものの、これまで成功例は1つもなかったからだ。

ところが、医師はある異変に気づいた。眠っている男性が、正常に呼吸していたのだ。「この患者は、普段なら無呼吸の状態が続くはずなのに、きちんと呼吸ができていた。だから最初は、機器の接続に問題があるのではないかと思った」とモンテムーロ医師はフォーブスに語る。しかし装置に異常はなかった。彼が試していた既存の2種類の薬を組み合わせた治療が、実際に効果を発揮していたのだ。「信じられない気分だった」と同医師は振り返る。

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治療薬の権利を取得した新興Apnimed、FDAへの承認申請を準備

それから9年が経過した今、Apnimed(アプニメッド)が、この2つの薬をベースにした夜1回服用の治療薬について、FDAへの承認申請を準備している。同社は、ハーバード大学からこの治療薬の権利を取得したマサチューセッツ州ケンブリッジ拠点のスタートアップだ。モンテムーロ医師は同社共同創業者で、現在は最高科学責任者(CSO)を務めている。

この薬は脳幹を適度に覚醒させ、喉の筋肉が完全に弛緩するのを防ぎつつ、脳そのものの睡眠状態を保たせることで呼吸障害を抑えるという仕組みになっている。承認が順調に進めば、2027年前半にも市場投入される可能性があり、米国で推定8000万人にのぼる睡眠時無呼吸症候群患者の一部にとって、人生を大きく変える治療法となるかもしれない。

睡眠時無呼吸症候群と、従来の治療法CPAP(持続陽圧呼吸療法)に関する課題

現在、この疾患の主な治療法はCPAP(持続陽圧呼吸療法)と呼ばれる空気を喉に送り込むことで気道を開いた状態に保つ装置を用いたものだ。治療効果は確かだが、患者たちの多くはこの治療法を嫌っている。睡眠時無呼吸症候群を抱える人の中には、この装着を嫌がって使用を拒んだり、CPAPを使うことになるのを恐れて、そもそも診断を受けないケースも少なくない。

睡眠時無呼吸症候群は、単なる「不快さ」で済む病気ではない。研究では、治療を受けていない患者は心疾患や脳卒中を発症しやすく、パーキンソン病やアルツハイマー病との関連が示唆されている。患者が無理なく受け入れられる治療法が実現すれば、生活の質だけでなく、長期的な健康状態そのものを大きく左右する可能性がある。

評価額は約632億円に到達、IPOも視野に入れ商業化に備える

2017年創業のバイオテック企業Apnimedは、現時点では収益を得ていない。だが、この飲み薬の将来性が評価され、Morningside Group、Alpha Wave Global、Sectoral Asset Managementといった投資家から、評価額4億ドル(約632億円)で総額2億6000万ドル(約411億円)を調達した。薬の市販化に成功すれば、企業価値は大きく跳ね上がる可能性がある。

ただし、新薬を商業化するには多額の資金が必要だ。Apnimedは現在、その資金をどう確保するかを検討中で、早ければ年内に新規株式公開(IPO)を行う可能性も視野に入れている。仮に睡眠時無呼吸症候群の患者のうち、ごく一部しかこの薬を服用しなかったとしても、年間売上が数十億ドル(数千億円)規模に達する画期的治療薬になる可能性がある。

「膨大な数の患者がこの薬を使うことになる」と語るのは、Apnimedの共同創業者兼CEOで連続起業家のラリー・ミラー医師だ。呼吸器内科医の彼は、同社の立ち上げのために自身のリタイアを延期したという。「実際に使う人は、数百万人規模になると思う。それが100万人なのか、1000万人なのかは、まだ分からないが」。

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翻訳=上田裕資

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