トランプ大統領が2025年導入した減税措置にもかかわらず、世界のビリオネアたちが競走馬やプライベートジェット、キャビアなどに投じた金額は、2025年に軒並み上昇した。
ランプ大統領の減税措置が追い風、競走馬の落札平均価格が上昇
2025年秋に開かれた世界最大のサラブレッド競売会、キーンランド・イヤリング・セプテンバー・セールにおいて、買い手にあたる富裕層の落札総額は5億3200万ドル(約841億円。1ドル=158円換算)に達した。1頭あたりの平均価格は約65万ドル(約1億円)と過去最高を記録しており、2024年比で23%の上昇にあたる。
ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法により、購入費用の控除が可能に
こうした出費上昇の背景には、トランプ大統領が成立させた税制法「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法」がある。同法には、競走馬の購入費用を初年度に100%損金算入できる措置が盛り込まれていた。
競走馬業界誌「ブラッドホース」の編集者、エリック・ミッチェルは、「購入費用の相当部分を税務上控除できることは、多くの買い手にとって大きなメリットになる」と語る。ミッチェルによると、全米のサラブレッド生産の中心地であるケンタッキー州で見られた市場の成長は、連邦税率が高かった一方で、税負担を軽減する制度が豊富に用意されていた1980年代半ばに匹敵するという。
フォーブス「超富裕層生活費インデックス」(CLEWI)の上昇率は、消費者物価指数(CPI)の約2倍
競走馬の価格だけが、ビリオネアの暮らしにかかる費用を押し上げているわけではない。フォーブスは1982年以来、グッチのローファーからセーリングヨットまで、超富裕層が日常的に利用する高級品やサービスを追跡しており、「超富裕層生活費インデックス」(CLEWI。Cost of Living Extremely Well Index)と呼ばれる指標を算出してきた。いわば消費者物価指数(CPI)のビリオネア版だ。
2025年のCLEWIは5.5%上昇し、2024年の伸び率4.7%を上回った。この上昇率は、同年に2.7%上昇したCPIのおよそ2倍にあたる。つまり2025年のインフレは、一般層よりもビリオネアにとってはるかに厳しかったことになる。
世界のビリオネアの総数は過去最多の3148人、資産約15兆円超のセンチビリオネアが19人に増加
もちろん、富豪たちには十分な資金がある。世界のビリオネアの総数は過去最多の3148人に達し、合計資産は18兆7000億ドル(約2954.6兆円)と記録を更新した。ビリオネア1人あたりの平均純資産は、2024年との比較で5%増の59億ドル(約9322億円)で、その伸び率はCLEWIの上昇率とおおむね一致する。資産1000億ドル(約15.8兆円)以上の「センチビリオネア」も6年前は1人しかいなかったが、現在19人に上っている。そんな中、超富裕層を顧客とする企業は大きな利益を上げている。
世界のラグジュアリー消費額は横ばいだが、支出は超富裕層に集中
2025年の世界のラグジュアリー消費額は約1兆7000億ドル(約268.6兆円)と、2024年とほぼ同水準だった。ただし、消費者層は縮小しており、2022年の4億人から、推計3億4000万人へと減少した。高額な支出が、ますます一部超富裕層に集中しているためだ。
体験型サービスの需要が高まり、コンシェルジュやヨットが高騰
2025年は、高級外食やホスピタリティといった体験型サービスが、富裕層の間でとりわけ人気を集めた。その代表例が高級コンシェルジュサービスだ。この分野では、プライベートジェットの手配やVIP向けコンサートチケットの確保、アフリカのサファリ観光などの企画を任せたい顧客が増えたことで、価格が上昇した。カナダを拠点とするピュア・エンターテインメントによると、1年契約の会員費は20万ドル(約3200万円)で、前年の約18万ドル(約2800万円)から値上がりした。
欧州や中東からの顧客が増加し、旅行サービスの会員費が値上がり
同社のスティーブ・エドCEOは、この値上げの背景として、欧州や中東からの顧客が増えたことを挙げる。これら地域の顧客は、価格の高さがクオリティの指標になると考え、旅行サービスに対してもプレミアム価格を進んで支払う傾向が強いという。
「価格が高ければ高いほど、満足度が高まる人たちもいる」とエドは語る。一方で、アジアや北米では、こうした考え方をする顧客は比較的少ないとも指摘する。
ヨットの購買意向は衰えず──建造費が高騰する中でますます体験を重視
ヨットについても、資材価格や資金調達コストの上昇を受けて建造費が高騰しているが、それでもビリオネアの購買意欲は衰えていない。英国製のセーリングヨット「オイスター595」の価格は現在約420万ドル(約6億6000万円)で、2025年から7%上昇した。オイスター・ヨットのステファン・ツィンマーマン・チョッケCEOは、「ただ所有するだけではなく、そこから得られる体験が重視されている。顧客は世界を探検する機会に引きつけられている」と話す。
プライベートジェットやキャビアなど、生活費指数の構成品目が軒並み上昇
この1年で価格が大きく上昇したCLEWIに含まれる高額製品としては、プライベートジェット(3%上昇)やオリンピック規格のプール(6%上昇)、競技用ショットガン(26%上昇)などが挙げられる。フランスの三つ星レストラン「ル ベルナルダン」のメニューは5%値上がりし、オシェトラ・キャビアは9%上昇した。
オーダーシャツやシーツ、ロールス・ロイスの価格は前年と変わらず
もっとも、あらゆる製品の価格が上昇したわけではない。ロンドンのターンブル&アッサーで仕立てるオーダーシャツ12着の価格は、1万2000ドル(約190万円)弱と前年から変わっていない。イタリアのフレッテ製コットンサテンのシーツセットも3700ドル(約58万円)のままだ。ホイールベースを延長したロールス・ロイス・ファントムの価格も約60万ドル(約9500万円)と、ほぼ前年と変わらない。
富裕層がカリフォルニア州から流出し、不動産管理人の費用が下落
CLEWIが追跡する支出項目の中で、2024年から大きく値下がりしたのが不動産管理人の費用だ。人材会社ブリティッシュ・アメリカン・ハウスホールド・スタッフィングを通じて、サンフランシスコ周辺で不動産管理人を雇う場合の、最低年俸は現在38万ドル(約6000万円)となっている。これは2024年より約2万ドル(約316万円)低い水準だ。
同社CEOのアニタ・ロジャースは、コロナ禍で管理人が市外へ移り、そのまま戻らなかったこと、カリフォルニア州を離れる超富裕層が増えたことが、ベイエリアの需要の低迷につながっていると説明する。米国の他地域や欧州、中東での状況は比較的良好だという。
結局ビリオネアにとって、いくらかかろうと欠かせない支出もある。「コロナ禍の頃、24億ドル(約3792億円)で会社を売却した男性の夫婦がいた」とロジャースは振り返り、「彼は新しい邸宅の門の開け方が分からず、私がよじ登らなければならなかった」と語った。



