北米

2026.01.16 16:00

カリフォルニア州から逃げる富豪、物議醸す「5%の億万長者税」は成立するか

Christopher Penler/Shutterstock.com

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米カリフォルニア州で、資産10億ドル(約1580億円)超の富裕層を狙い撃ちにする新たな課税構想が波紋を広げている。最大の特徴は、議会審議を経ずに有権者が直接法制化する「住民投票」による成立を目指している点だ。対象は所得(Income)ではなく、株式などの「保有資産(Wealth/Net Worth)」そのものである。売却前の「含み益(Unrealized Gains)」にも課税されるため、手元資金の少ないスタートアップ創業者にとっては死活問題となりうる。

グーグル共同創業者ラリー・ペイジなどが州外へ脱出する動きを見せる中、法案には課税逃れを封じるための遡及適用条項も盛り込まれた。シリコンバレーの活力を削ぐとの懸念に対し、推進派は「公正な負担」を主張する。全米最高水準の税率を誇る同州で起きている、富と税を巡る攻防に迫る。

住民投票で成立を目指す「新たな課税構想」、知事や経済界は反対

カリフォルニア州で提案された超富裕層向けの税構想が、物議を醸している。この課税案は、「十分な税負担をしていない」と批判されるビリオネアから、より多くの税収を引き出すことを狙うものだ。

カリフォルニア州の一部ビリオネアはこの課税構想に強く反発し、州から出ていくことを示唆するだけでなく、実際に行動を起こし始めている者もいる。ただし、この制度がすぐに実現するわけではない。この税構想が2026年11月の住民投票に付されるには、まず一定数の署名を集め、その後の投票で有権者の承認を得る必要があり、実現までにはなお越えるべきハードルが残っている。またカリフォルニア州の有権者は気まぐれで、過去には富裕層への課税強化を支持したものの、1978年には不動産に関する課税を厳しく制限する住民提案の「プロポジション13」を可決した。

新たな税構想をめぐっては、経済界だけでなく州のギャビン・ニューサム知事も反対の立場をとっている。反対派は、テック起業家や彼らが運営する企業の雇用が州外へ流出し、「税収の減少につながりかねない」と主張する。しかし法案の起草者は、そうした見方は成り立たないとしている。

資産約1580億円以上の居住者から徴収し、約15.8兆円を医療基金に充てる計画

「2026年億万長者税法(2026 Billionaire Tax Act)」と呼ばれるこの課税構想は、純資産が10億ドル(約1580億円。1ドル=158円換算)以上のカリフォルニア州居住者に、1度限りの5%の課税を求める内容だ。草案に関わった4人の研究者は、州内に200人以上いるビリオネアから、合計約1000億ドル(約15.8兆円)を徴収できると試算している。約1000億ドル(約15.8兆円)という増税予測は、2025年10月17日時点のフォーブス『リアルタイム・ビリオネア・リスト(Forbes Real Time Billionaire List)』に基づくものだ(フォーブス『リアルタイム・ビリオネア・リスト』によると、カリフォルニア州には204人のビリオネアが存在し、その総資産は2.19兆ドル[約346兆円]に達する)。この税収は2027年から2031年にかけて州に入る見通しで、主に連邦政府によるメディケイド(低所得者向け医療保険)削減を補うための専用基金に充てられるという。

株式や退職年金も対象、不動産税に関しては既存の制限を回避

課税対象は幅広く、非公開企業の持ち分や上場株式、500万ドル(約7億9000万円)を超える個人資産、1000万ドル(約15億8000万円)を超える退職年金口座などが含まれる。一方、不動産については扱いが異なる。個人が直接保有している不動産や、撤回可能信託を通じて保有されている不動産は、課税対象から外される。これは、年間の不動産税の上限を評価額の1%に抑え、評価額の上昇も年2%までに制限しているプロポジション13の枠組みに触れないようにするためだ。ただし、複数の出資者で保有されている不動産や、事業の価値の一部として組み込まれている不動産については、課税対象となる可能性がある。

納税者は分割払いを選択可能、流動性の低い資産には繰り延べ措置も

2025年11月下旬に州司法長官へ提出された書類によると、納税方法は一括払いのほか、5年間にわたる分割払いも選べる。ただし、分割払いを選択した場合には、年7.5%の利子が課される。また、未上場のスタートアップの株式など、流動性の低い資産を主に保有している場合には、州と「任意繰延口座」の契約を結び、持ち分を売却するか、資産から現金を引き出すまで、納税を繰り延べることができる。

医療労働者団体「ユナイテッド・ヘルスケア・ワーカーズ・ウエスト」が後押しするこの提案は、2025年10月に初めて公表されたもので、ビリオネアが課税を避けるために州外へ移転したり、資産評価を操作したりする行為を極力封じることが明確に意図されている。課税額は2026年12月31日時点の純資産を基準に算定される。一方、税務上の居住地は2026年1月1日時点のものとされる。

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翻訳=上田裕資

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