一部富豪が州外への移住を急ぐ中、税務当局は居住者の認定を厳格化
一部ビリオネアは、2025年の年末に実際に州外への移転を試みていたようだ。なかでも注目されるのが、グーグルの共同創業者で、親会社アルファベットの筆頭個人株主でもあるラリー・ペイジが12月、マイアミにある2つの不動産を総額1億7350万ドル(約274億円)で購入したことだ。このタイミングは彼が関与する企業が期限ぎりぎりでカリフォルニア州を離れた動きと重なっている。
裁判所は生活実態や社会的つながりを重視、課税逃れの移住を容易に認めない方針
ただし、カリフォルニア州を離れることは容易ではない。州の税務当局は、拙速な移転や非居住者だとする申告に対し、厳しく精査を行っており、実際に税逃れを防いだ例も少なくない。2025年9月には、カリフォルニア州税務不服審査局(OTA)が、カナダ出身のコメディアン、ラッセル・ピーターズについて、2012年から2014年までの税金を「州の居住者」として納める義務があると判断した。ピーターズは、州所得税のないネバダ州に自宅やコンドミニアムを持ち、同州の運転免許証を取得し、ネバダ州で3つの法人を運営していたほか、カリフォルニア州では非居住者として申告し、住所欄にはカナダの住所を記載していた。
それでも審査局は、ピーターズがカリフォルニア州内に住宅を所有していたことや、現在は離婚した当時の妻との間に生まれた娘と共同親権を持ち、その娘が州内に居住していたこと、クレジットカードの利用履歴から、他のどの州よりも多くの日数をカリフォルニア州で過ごしていた点などを重視した。
裁判所は、2021年に出されたブラカモンテ判決を先例として参照した。この判決では、1700万ドル(約27億円)超で事業を売却する前にネバダ州へ移転したと主張した夫婦に対する、州側の判断が支持された。この判決では、「州への登録状況や個人的・職業的なつながり、実際の滞在実態、不動産の保有状況など、あらゆる要素を総合的に考慮すべきだ」という広範な判断基準が示された。
「カリフォルニア州の居住者判定に関する税務ルールは、極めて主観的だ」と、サンフランシスコで税務弁護士として活動するシャイル・P・シャーは語る。居住者認定をめぐる案件を数多く扱ってきた彼は、ブラカモンテ判決を受けて「カリフォルニアから距離を取る」と題した論考も執筆した。
現行ルールについてシャーは、「納税者が本当にカリフォルニアを恒久的に離れ、州との関係を断ち切る意思を持っていたのかどうかを、裁判官が判断する仕組みになっている」と説明する。シリコンバレーで何十年もかけて巨額の財を築いてきたテック業界のビリオネアにとって、その意思を立証するのは容易ではないとも指摘する彼は、「この州に社会的なつながりを持つビリオネアが、カリフォルニアに戻るつもりは一切ないと主張するのは、かなり困難だ」とも述べている。
過去にさかのぼる遡及適用の方針に対し、専門家は早期の対策を助言
法律事務所ベーカー・ボッツのサンフランシスコ事務所を統括する税務弁護士、ジョン・D・フェルドハマーは、「私はここ最近、カリフォルニア州を離れ、事業も含めて州との関係を恒久的に断つことを真剣に検討しているビリオネアとこの税制について協議する機会が増えている」と語る。
しかし、ここで浮かぶ疑問は、「もう手遅れではないのか?」「2025年中に手を打つ必要があったのではないか?」というものだ。
これについてフェルドハマーは「必ずしもそうではない」と述べている。2025年12月に公表した論考で彼と同僚は、この課税案の連邦憲法、州憲法、あるいはその双方に基づく8つの争点を整理した。その1つとして彼らが挙げる論点が、課税の「遡及適用をめぐる問題」だ。新たな課税案が、仮に11月の住民投票で承認されれば、この税は2026年1月1日時点でカリフォルニア州に居住していたビリオネアにもさかのぼって適用されることになる。背景には、連邦所得税や相続税については、年初にさかのぼる形での遡及適用を米連邦最高裁が認めてきた経緯がある(2025年7月に成立したトランプ政権のOne Big, Beautiful Bill[1つの大きく美しい法案]もその例に含まれる)。しかし、フェルドハマーは、「現在の最高裁が、新たな税についてまで遡及適用を認めるかどうかについては、不透明な兆しもある」との見方を示す。彼がビリオネアに対して行っている助言は明確で、「遡及適用を争う余地を残す最善の方法は、住民投票の前に、できれば一日でも早く州を離れることだ」という。
非公開企業の株式や美術品の評価について、資産隠しを防ぐ詳細なルールを盛り込む
この制度は執行面でも課題を抱える可能性がある。そのため課税案には、資産の過小評価や除外を防ぐ細かな仕組みが数多く盛り込まれている。非公開企業については、原則として簿価に年間の簿価利益の7.5倍を加えた額で評価されるが、その金額は直近の資金調達ラウンドで付された評価額を下回ってはならない。納税者が評価が過大だと考える場合には、第三者による評価資料や関連資料を提出して反証することが認められている。
美術品や宝飾品といった個人資産については、保険を掛けている場合、その保険価額を下回る評価は認められない。慈善団体への寄付として誓約された資金は課税対象から除外されるが、その誓約は2025年10月15日までに法的拘束力を持つ形で行われている必要がある。富裕税を回避する目的で2026年に取得された個人保有の不動産については、免除の対象にはならない。


