企業のAI活用を阻む壁は何なのか。富士フイルムビジネスイノベーションが新たに展開するAI技術群を起点として、同社の技術戦略を統括する取締役・常務執行役員 CTO鍋田敏之(以下、鍋田)に、「AIの民主化」というビジョンと戦略について聞いた。
誰ひとり取り残さないAI
かつて富士ゼロックスの社名で、オフィス複合機をはじめとする様々なビジネスソリューションを提供してきた富士フイルムビジネスイノベーション。同社のサービスは今、これまでに培ってきた数々の独自技術を結集した新たなAI戦略のもと、次なる展開を迎えようとしている。
掲げる哲学は「AIの民主化」。
「『誰ひとり取り残さない』を合言葉に、すべての企業がAIの恩恵を受けられる社会を目指す」と鍋田は語る。
世界ではハイパースケーラー※1が巨額投資を続けAIモデルを生み出している。しかし、それらをビジネスの現場で本当に使いこなす企業はまだまだ一部だ。同社が届けたいのは、汎用AI※2とは一線を画す、中小企業も含めたすべてのビジネス領域において活用しやすいAIだ。
※1 超大規模なデータセンターを持ちクラウドサービスを提供するプラットフォーマー企業
※2 テキスト生成、プログラミング、翻訳などをマルチモーダルで行える大規模言語モデルベースのAI
立ちはだかる非構造化データの壁
2025年の調査によると、業務で日々扱う契約書・請求書などの文書、そしてメール・社内チャットなどの「非構造化データ」が、企業内で生成されるデータの86%以上を占める※3。しかしこの非構造化データ、実はAIフレンドリーではなく、そのままでは活用が難しい。大企業であれば費用をかけ、膨大な量の文書を「構造化データ」に変換し活かすこともできるが、リソースの限られる中小企業にとってはハードルが高いのが現実だ。
「ここに私たちが果たすべき役割がある」と鍋田は語る。
同社には、企業の非構造化データをデジタル化し適切に整理する仕組みがある。複合機を中心としたオフィスソリューションを提供する中で培ってきた情報管理の実績も、ホチキス留めされた紙資料までも自動でデータ化するロボティクスの技術※4も、すべてを投入できる。その『紙とデジタルをつなぐ結節点』こそがAI活用の一丁目一番地なのだ。
富士フイルムビジネスイノベーションはこれまで、企業が持つ様々な有形無形のノウハウ(情報資産)がまさに「企業力の源泉」であると捉えてきた。だからこそ、モデル開発だけではなく「AIを活用するための前処理工程」に注力する。どんな企業も、その会社固有の情報資産を有効活用できるべきという考え方は、彼らが目指す「AIの民主化」に直結している。
※3 IDC, Worldwide Global DataSphere Structured and Unstructured Data Forecast, 2025–2029, #US52800025 August 2025より
※4 富士フイルムRIPCORDのロボティクスとAI技術を活用し、大量の紙文書を高速で電子化し、データの自動抽出や自動仕分けなどを行うクラウドサービスを提供
ビジネス領域で培ったAIノウハウを融合
富士フイルムビジネスイノベーションが提供するAIソリューションは、同社がこれまでにドキュメント領域を中心に実用化してきた統合的な画像処理の技術と、自然言語処理技術との融合により実現されている。
1980年代、同社はビジネス領域における本格的な画像処理の技術開発をスタート。文字-オブジェクトの分離技術や、日本語手書き文字にも対応する高精度なAI-OCRなど、実用性の高いノウハウを長年にわたって蓄積してきた。
並行して、深層学習(ディープラーニング)を活用した、ビジネスドキュメントにおける自然言語処理技術も確立。業界ごとの専門用語を正しく理解し、整理・構造化することができる独自の意味解析アルゴリズムを開発してきた。「視覚」と「言語」、この2領域で培われた高度な情報処理技術を融合させることで、企業の情報文脈を深く理解し、現場で即戦力として使える実効的なシステムが完成するという。
企業とともに育ち、成熟する「脳」
「我々の提供する独自のAIソリューションは、汎用AIとは根本的に異なります。企業ごとのデータを学習し続け、Web上の情報だけでなく、その企業内での専門用語や、社員に属人化したノウハウなどの独自情報までを理解しながら成長します」(鍋田)
使うほどによりかしこく育つ「生涯伴走型」のアプローチこそが、汎用AIを提供するハイパースケーラー企業との違いでもある。
鍋田はユーモアを交えこう続けた。
「各企業が持つ『秘伝のタレ』をどんどん理解して、会社の『脳』になるわけですね」
AI価値提供の5本柱
富士フイルムビジネスイノベーションが展開するAIの提供価値は、以下の5つのカテゴリーで構成されている。

まず、すべての起点となるのが「①認識・構造化AI」だ。社内資料や請求書、テキスト・画像・図などの非構造化データを、AIが活用可能な構造化データに変換する。これは同社の独自の強みであり、ほか4つのAIカテゴリーすべての基盤となる技術だ。
次いで、「②効率化AI」の出番だ。企業ごとの固有データを分析し、専門性や経験値を補完して業務の効率化や自動化を支援する。
さらに高次の「③提案・付加価値化AI」では、企業固有の経験値データに加えて各国の法令動向に至るまで幅広い業種特化の情報を掛け合わせ、経営や営業、企画の判断や意思決定を高度化する。
業界によっては、「④機器最適化AI」が活用できる。例えば、ベテラン社員や熟練工などに属人化されがちな複雑な機器オペレーション業務を解析し一般化する。人間による作業よりも20~30%効率的なワークフローを実現できるという。
また、「⑤画像・質感表現AI」では、画像認識と視覚・認知メカニズムに基づき、特殊トナーを使った次世代商業印刷の実現など、従来不可能だった表現領域の開拓も行っていく。
技術のエスカレーション設計
5つの柱で構成される同社独自のAI技術体系は、単独で機能するものではなく、相互に連携しながら段階的に進化する「エスカレーション設計」が特徴的だ。
構造化ができると、例えば効率化による企業のコスト削減AIが機能し始める。それができると、次に付加価値化による経営や営業の意思決定を支援するAIが進化していく──。
企業は自社の環境整備の度合いに応じて適切なAIを選択し、深化させることができる。
「AI革命軍」
推進体制で特筆すべきは、CTO戦略室という中核チームの位置づけだ。
「CTO戦略室は、富士フイルムグループが持つ多様なテクノロジーや、外部のAIベンダーやパートナー企業が持つ技術をつなぎ合わせ、価値を造り出すハブとなります。さらに、その価値を営業チームと共に磨き上げ、市場への導入も主導します」(鍋田)
目指すのは、技術チームが開発し、営業が売り方を考えるといった縦割り的な組織ではない。両者が一体となって機動的に動く、横断的かつ協働的な組織体制だ。
「世に出る前から一緒に企画をしていく。最新のAIテクノロジーを一緒に学んで、ローンチ時にはすでに導入スキルが実装されているという面白い体制なのです」
技術と現場知識を併せ持つハイブリッド人材を揃えることで、顧客への迅速・継続的な価値提供を実現していく。
活躍の場は、より広いフィールドへ
2025年秋以降は、特定業種でのサービスがスタート。まず、金融やモノづくり、物流など、文書・帳票が多く、データ構造化の必要性が高い業種が中心となるが、そこだけにはとどまらない。
「富士フイルムビジネスイノベーションは元々、数十万社の多種多様な業種のお客様と繋がりを持ち、営業・SEが日常的に企業の情報に関わってきた歴史がある。つまり、非常に多岐にわたる業界のお客様のニーズを既に把握できているということです」(鍋田)
この強固なビジネス基盤を起点に、業種や業務の専門性に寄り添うAIソリューションをより幅広い顧客へ順次展開する計画を描いている。
「第三の革命」の始まり
企業固有データの構造化に始まり、業務の効率化や、その企業ならではの付加価値の深化にまでわたる包括的なAIソリューション。それは日本企業の真のDX推進そのものだ。
これまで、数々の「技術の民主化」を実現してきた富士フイルム。写真を「写ルンです」で気軽に楽しめるものに進化させ、ビジネスの現場では高度な情報処理を広く活用できるよう複合機を高度化させてきた。そして今、新たなAI技術体系のもと「AIの民主化」という第三の革命を進めている。
「高度なAI技術を誰もが使えるシンプルな形で提供する。この思想こそが私たちのDNAです」
今年、富士フイルムビジネスイノベーションの新たなAIソリューションのローンチとともに、すべての企業にとっての新たなAI活用時代が幕を開ける。これは、日本全体の生産性向上と競争力強化に直結する取り組みだ。
大企業だけでなく、中小企業までがAIの恩恵を受けられる社会を実現し、日本産業界全体のパフォーマンス向上を加速させる。それこそが同社の描く未来図だ。
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