キャリア・教育

2026.01.22 14:30

自己啓発思想史から読み解く真の「成功」とは何か?

wenich_mit/Shutterstock.com

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「自己啓発本」の歴史から読み解く“成功至上主義”の現在地と課題。愛知教育大学教授・尾崎俊介が提唱するのが「自分本位に生きる」ための思想としての自己啓発だ。 本記事は、一般社団法人デサイロが企画・編集を担当している。

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なぜ働いていると本が読めなくなるのか?──こんな疑問をもったことがあるだろうか?

このように問えば、おそらく多くの方が「しかり」と答えるに違いない。なんとなれば昨年出版された同名の本、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)は今日までに30万部のベストセラーとなり、「第2回 書店員が選ぶノンフィクション大賞2024」を受賞したばかりか、著者である気鋭の評論家・三宅香帆氏は、今やマスコミの間で引っ張りだこなのだから。

この本が主張していることを一言で要約すれば、「日本のビジネスパーソンは働き過ぎだ」ということに尽きる。日本人は元々勤勉であるところにもってきて、明治維新以来、あまたの自己啓発本が世に出回り、それらが異口同音に「もっと働け!もっと成功しろ!」とあおり立てるものだから、日本のビジネスパーソンは働きづめに働いて青息吐息、まともな本すら読めないほど疲労困憊している。しかし今はそういう時代ではない。自己啓発本など放り出し、燃え尽きるほど働くのはやめて、もう少しリラックスすべきではないか?というわけだ。そしてこの本が今なお売れ続けているということは、取りも直さず三宅氏の主張に共感する人がそれだけ大勢いるということに他ならない。

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だがここでひとつの疑問が浮かび上がってくる。日本のビジネスパーソンが働き過ぎであるのは事実として、それを指弾する指先がビジネスパーソンにではなく、自己啓発本に向けられるのはなぜなのか?

自己啓発本の誕生

そもそも自己啓発本は18世紀末のアメリカで生まれた文学ジャンルで、かのベンジャミン・フランクリンが書いた『フランクリン自伝』(英語版1793年)がその嚆矢といわれている。

フランクリンは貧しい家の出で、12歳の時から徒弟として働き始めた苦労人。しかしここから先、フランクリンは出世街道をまい進する。印刷業界にしばらく籍を置いた後、ジャーナリストとなって『貧しいリチャードの暦』なるベストセラーをものしたかと思えば、地元フィラデルフィアの郵便局長に転じ、その後、有名な「たこ揚げ実験」で 雷が電気現象であることを発見するなど科学者としても活躍している。そして1775年、宗主国イギリスを相手にアメリカ独立戦争が始まると、戦争の大義を天下に知らしめるための「独立宣言」の起草にかかわり、次いで外交官として急きょフランスに飛ぶや、かの国をアメリカの味方につけることに成功。これが決め手となって見事イギリスとの戦いに勝利することができたのだから、アメリカが独立を果たすことができたのはフランクリンのおかげと言っていい。彼が1790年に亡くなった時、「建国の父祖」のひとりとして国葬の栄誉を受けたのも当然だろう。

さて、フランクリンはおおよそこのような波瀾万丈の生涯を送ったのだが、彼の人生が自己啓発本とかかわってくるのはこの先の話。

フランクリンは晩年になってから少しずつ自伝を書き継いでいて、死後にそれが一冊の『自伝』として発表されたのだが、そこに彼の出世の秘訣が明記されていたのだ。それによると彼は若いころ、「節制」や「勤勉」といった徳目を13個選び出し、これらをにつけて人格向上することに努め、そうした一連の自助努力によって人もうらやむ出世を遂げることができたという。かくしてこの本は「立身出世のノウハウを伝える本」として世に出回ることとなり、志ある若者たちはこれをむさぼり読んだ。フランクリンの『自伝』がアメリカ初の、そして世界初の自己啓発本とされているのはこのためである。

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文=尾崎俊介 企画・編集=一般社団法人デサイロ

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