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2026.01.30 20:00

孤独な脱炭素化はもう終わり。パタゴニアが日本のビジネスパーソンへ贈る「対話の招待状」

「一緒に考えましょう。私たちが正解をもっているわけじゃない問題もあるのです」

2025年11月中旬、パタゴニアは自らの失敗や未達の数字をも詳らかにした初のインパクトレポート『Work in Progress』を公表した。それに続く12月、同社は業界内外のビジネスパーソンを招き、初のシンポジウムを開催。アパレル関係者のみならず、金融、法務、サービス業など、一見環境問題とは距離があるように思える領域のリーダーたちが集結した。彼らはなぜ今、パタゴニアとの対話を求めるのか。来日した副社長のマット・ドワイヤーへのインタビューから、その真意を探る。

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2025年12月中旬、渋谷。パタゴニア渋谷店にほど近いTRUNK(HOTEL) CAT STREETは、ビジネスパーソンでひしめき合っていた。証券会社でのトッププレーヤー、弁護士、オフィスの清掃会社の社長と、アウトドア業界と一見関係が薄そうな領域から揃い踏み。スーツ姿やアウトドアウェアに身を包み、壇上のドワイヤーに視線を注いでいる。

異業種のビジネスパーソンを呼び寄せたイシューこそ「気候変動」にほかならない。

もはや、気候変動を「将来の懸念」と呼ぶ者はいない。記録的な猛暑による労働効率の低下や、激甚化する水害がもたらす物流網の麻痺は、企業のバランスシートを確実に侵食している。特に2026年から本格化するGHG排出量の計測義務化は、自社のみならず、取引先を含めたサプライチェーン全体の「炭素効率」を問うものだ。GXは単なる成長戦略ではなく、生存をかけた構造改革として捉える空気が、経済界を支配し始めている。

経済界がこうしてシリアスな視線を注ぐようになるずっと前からパタゴニアは、自身のビジネスがもたらす環境への悪影響に自覚的だった。創業から50年、製品の品質と環境アクティビズムを内包したビジネスを展開して世界に知られ、カスタマーをはじめとするコミュニティからの信頼を築きながら繁栄してきたからだ。もっと言えば、「善行をなすことから利益を上げる」ことは創業時に“織り込み済み”の企業であると言っていい。どういうことか。

「このジャケットを買わないで」

山や海のみならず、街中でも人気のアパレルブランドのイメージがあるパタゴニア。その前身は、クライミングギアの製造販売会社「シュイナード・イクイップメント」だったことは、ご存知だろうか。

世界的にも活躍を知られ始めていた若きクライマー、イヴォン・シュイナードは1957年、若干19際で自らの名前を冠した「装備(イクイップメント)屋」を創業した。鋼鉄製のピトン*を主力製品に、設計指針には現在のパタゴニア製品にも継承されている哲学を込めた。アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの言葉を引くそれは、『いかなるものであれ、「完璧」とは、加えるべきものがなくなった状態を言うのではなく、取り去るべきものがなくなった状態を言うのである。すべてを脱ぎ去り、一糸まとわぬ体となった状態だ』というもの。

当時のほぼすべてのクライミングギアを機能的に改良し、70年代には米国最大のクライミングギア・メーカーにまで上り詰めるが、ピトンが、愛する山々の岩肌を無惨に削り取っている事実に、彼は打ちのめされる。ビジネスの成功が、そのまま自然の破壊に直結しているという現実に、だ。

シュイナードはすぐさま製品の製造を中止。以降、シュイナードは岩壁へのダメージのない、回収可能なアルミ製のチョックなどによる「クリーンクライミング」を提唱。長年にわたる環境配慮の道を歩みはじめた瞬間となった。その後、シュイナードがパタゴニアを創業したのは衝撃からおよそ2年後の1973年のことだ。

* クライミングのギアで、岩壁の割れ目に打ち込む金属製のくさびのこと。ロープを固定するために用いられる。

創業者のイヴォン・シュイナード。彼はビジネスを『地球を救うための道具』と定義した。(photo ©Jimmy Chin)
創業者のイヴォン・シュイナード。彼はビジネスを『地球を救うための道具』と定義した。(photo ©Jimmy Chin)

創業から現在に至るまで、パタゴニアのビジネスの利益よりも、自らの遊び場を守り、製品の製造に関わる人々の労働環境を守るための倫理的な行動を優先する様は、パタゴニアの原姿勢であり続けている。

たとえば、1985年には税引き前利益の10%(後年、年間売上の1%に変更)を草の根の環境保護団体に寄付することを提唱、2002年には非営利団体「1% for the Planet」を発足させた。

製品サプライチェーンについては、コットンやポリエステルなど4種類の主要な製品原料の環境インパクトを調べる自社調査を90年代初頭に実施、慣行農法によるコットンの土壌と水質の汚染、人々の健康や生物への悪影響が判明するや1996年までにオーガニックコットンへの切り替えることを決め、同年、大手フットウエア・ブランドの工場で児童労働が明るみになると、クリントン米大統領が主導した「公正労働協会」の設立に名を連ねた。

また、2011年のブラックフライデーでは、気候変動の主要な要因のひとつに「過剰な消費」があるとして、ニューヨーク・タイムス紙に「このジャケットを買わないで(Don’t Buy This Jacket)」とコピーを冠した一面広告を掲載、自社製品不買キャンペーンという広告を打ち、話題を呼んだ。

しかし、他方で気候変動の影響はより深刻化していった。

その過程で、パタゴニアのミッションステートメントもより危機感を孕んだものとなり、2018年、現在の「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む(We’re in business to save our planet)」と変更。2022年にはシュイナード一家が所有していたが、30億ドル規模の企業価値があるといわれた会社の所有権を2つの非営利組織に譲渡する異例の決断をした。ミッションが永続的に守られ、利益が気候と生態系の危機に取り組む環境保全団体に速やかに行き渡るよう独自の株式保有モデルを構築、売却でもIPOでもない出口戦略を示したのだった。

「皮肉屋」にはなるな

「善行をなすことから利益を上げる」倫理観は、都内のカンファレンスルームの壇上で視線を集めていたマッド・ドワイヤーにも共通する。パタゴニアのプロダクト・インパクト責任者であるドワイヤーは、アウトドア業界が長年依存し、そして今も揺るがしている「PFAS(有機フッ素化合物)」の普及に携わり、そして廃止を主導した男だからだ。

壇上に立つマッド・ドワイヤー。フランクかつ真剣に、聴衆に向かって語りかける。(photo by Shota Matsushima©2025Patagonia,Inc.)
壇上に立つマッド・ドワイヤー。フランクかつ真剣に、聴衆に向かって語りかける。(photo by Shota Matsushima©2025Patagonia,Inc.)

PFASはアウトドアアパレルでは主に生地表面の撥水加工に用いられてきた化合物で、アウトドアに馴染みの薄い人であれば、フライパンの「テフロン加工」などを想起していただきたい。このPFASは、加工の強靭さゆえ自然界ではほぼ分解されず、近年では人体への有害性も指摘され、使用を控える動きが近年広まっている。

ドワイヤーは材料工学専攻の自称「メンブレンオタク」。前職の大手生地メーカーでPFASの普及に携わった過去をもちながら、パタゴニアに転じた2013年以降は、PFASのネガティブなインパクトを知り、代替できる耐久撥水加工の開発に力を注いだ立役者だ。一度は「失敗」を味わいながらも、2025年春までパタゴニア製品のPFASの意図的な不使用を達成した。

「かつての開発者は、その物質が環境に与える影響を知りませんでした。しかし、今の私たちは知っている。知っている以上、アプローチを変えるのは当然の責務です。その時に、シニカルにあってはならない。皮肉屋は議論を続けても、考え方を変えないのです。ただ、疑いをもつことができれば、データを集めたりそのデータに対して従来の考えを改めたりできる。PFASが最善なのかという疑いがあったから、別素材の開発に踏み込めたように」(ドワイヤー)

科学者らしくデータの集積を重じるドワイヤーが作業に没頭し、まさにパタゴニアが向き合うべきデータとして集積されたのが、2025年秋に準備期間1年以上をかけてリリースされた自社初のインパクトレポート「Work in Progress」だ。

「資本主義の搾取的なモデルに対抗する」と87歳になってもなお覇気のある元オーナーのシュイナード、パタゴニアはパラドクスだと看破しつつも「私たちは真に持続的なインパクトをもてる。ビジネスは、善の力になれる」と呼びかけるCEOのライアン・ゲラートのメッセージにつづき、レポートにはさまざまな数字、関連するストーリーが日本語版で154ページにも及ぶボリュームで収められている。

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「このレポートは、パタゴニアを称賛するためのものではありません。自分たちの責任を明確にし、スタンダードを提示するためのものです。私たちは非公開企業ですが、透明性を保つことで、他の企業にインスピレーションではなく『責任の取り方』を示したいのです」(ドワイヤー)

ドワイヤーが言うように、ここには同社の成功体験のみならず、生々しい未達の数字が並ぶ。例えば、繊維廃棄物や捨てられた漁網など二次廃棄物を使用している製品はまだ6%に過ぎないこと。パタゴニア製品の85%は使用後の処理方法が確立されていないこと。

そのほかにはGHG排出量、独特な事業形態の懇切丁寧な説明、寄付額など盛りだくさん。12年間パタゴニアで働き、あらゆるプロジェクトに首を突っ込んできたドワイヤーでさえ、このレポートを作成する過程で新しい発見が見つかったという。レポートは世界各地で働くパタゴニアの従業員にとって、自社の現在地をあまねく知らせる役割もあったようだ。 

閉塞感は必要ない。「さあ始めよう」

このレポートを引っ提げて12月に渋谷で開催されたシンポジウムは、パタゴニアからのビジネスを善の力とするためのいわば「対話への招待状」だったといえる。ドワイヤーは、会場を埋め尽くした日本のビジネスパーソンが抱える「何から手をつければいいのか」という沈黙の戸惑いを見透かすように、こう語りかけた。

「まず、事実を直視することから始まります。日本の夏がこれほど長く、暑くなったこと。一方でテキサスが異常な寒波に襲われていること。これらはすべて、人間が作り出した化石燃料への依存が招いた結果です。私たちは皆、気候変動という変化の中に身を置いています。道のりは業界や業種によって一人ひとり違いますが、同じ将来を見つめている。難しい問題を一度に解決しようと気負う必要はありません。まずは、取り組みを始めること。そして、声を上げることです 」 (ドワイヤー)

レポートの中でドワイヤーは、「私たちは2025年の目標を達成したのか?」という自問に対して、「玉ねぎの皮を剥けば剥くほど、涙が出てきます」と自答し、環境汚染を続けながら、カーボンオフセットによってカーボンニュートラルを達成するというアプローチに嫌悪感を抱くようになったと述懐している。

脱炭素をビジネスチャンスと捉える企業もあるが、脱炭素への道があらゆる企業にとってスマートで華やかなものであるとは言い難い。それは泥臭く、時に「うんざり」するような対話の連続かもしれない。シンポジウムでの講演中も、ドワイヤー自身も、サプライヤーとの困難な交渉に気が滅入ることもあると仲間内で正直に話すことでかえって気分が明るくなると漏らし、会場の笑いを誘っていた。その姿は、環境対策を「義務」や「コスト」として背負い込み、孤独に戦うビジネスリーダーたちへの救いのようにも見えた。

パタゴニアでは今後、東京・京橋にオープンした旗艦店を拠点として、新たにビジネス・ダイアローグを開催する予定だという。業界を問わないさまざまなビジネスパーソンを店に呼び、経験や困難を共有する。そこは、成功事例を自慢し合う場所ではない。自社の「進行中(Work in Progress)」をさらけ出し、他業界の知恵を借り、共に悩みながら前進するための「作戦会議室」のようになるだろう。

パタゴニアがいかに現状に満足せず、真剣に、かつ伸び伸びと「進行中の自分たち」に苛立っているか。その生々しい葛藤は、154ページのレポートに刻まれている。 正解のない問いに、眉間に皺を寄せて立ち止まる必要はない。必要なのは、閉塞感を突き破るための、ほんの少しの正直さと連帯だ。京橋の街角から、業界の壁を溶かす新しい声が響き始めるのが待ち遠しい。 

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マット・ドワイヤー◎パタゴニア副社長。2006年リーハイ大学(材料工学)卒。W.L.ゴア社を経て13年入社。素材開発の責任者としてPFAS廃止や報告書公表を牽引

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パタゴニア日本支社
https://www.patagonia.jp

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