「勝者総取り」の歪なエコシステム
「周りではスポーツの話題で持ちきりだ」と反論する方もいそうだ。確かに、特定のコンテンツは異常なほどの熱量を帯びている。だが、それこそがこの危機の正体、「市場の二極化」である。日本のスポーツ市場は今、一部の「超・勝ち組」と、その他大勢の「負け組」に分断されつつある。
25年、プロ野球全体のファン人口は0.4%増と2218万人で横ばい。しかし、その内訳を見ると、驚きもする。阪神タイガースのファン人口が、前年比14.9%増の477万人へと激増。 前年の調査では415万人だった同球団のファンが、60万人以上も増えた計算になる。これは、もちろんリーグ最速優勝という好成績がもたらした「バンドワゴン効果(勝ち馬に乗る心理)」の極致と言える。
一方で、その他の多くのスポーツやチームは、この「勝者」の陰で苦戦を強いられた。最も懸念すべきは、Jリーグの退潮だ。24年にはファン人口が前年比11.5%増の952万人まで回復、だが25年には901万人へと5.4%減少。1年で50万人以上のファンを消失した。
少々不可思議なのは、日本代表ブランドの失墜だ。かつて国民的関心事であったサッカー日本代表のファン人口は、前年比18.7%減という衝撃的な落ち込みを見せ、1,821万人となった。野球界においても、WBC優勝で沸いた侍ジャパンのファン人口が、24年の2,670万人から、25年には2,350万人へと12.0%も減少。26年はWBCイヤーとワールドカップイヤーが同時にやって来る。これが起爆剤となり、このデータは上向きが予想されるが、そもそも現在の日本のスポーツ消費は、リーグや競技そのものを愛する「文化としての定着」ではなく、「勝っているチーム」「世界で活躍するスーパースター」という"わかりやすい勝利"に群がる「イベント消費」に変質している形だ。
スポーツ選手の好感度 [複数回答] (各年n=2,000)
好きなスポーツ選手ランキングを眺めれば理解できる。第1位は8年連続で大谷翔平、第2位は三笘薫、第3位はダルビッシュ有、第4位は山本由伸、石川祐希。上位すべて「海外拠点の選手」が占めている。これは、国内リーグがスターを生み出せていない、あるいはスターがすぐに海外に流出、国内リーグそのものの求心力が低下していることを如実に物語っている。
大谷翔平のホームランに日本中が歓喜する裏で、国内のスタジアムから「代表戦」というキラーコンテンツの魔法すら解け始めている。市場全体が少数の「海外スター」や「国内の勝ち馬」に依存しすぎている現状は、ポートフォリオとして極めてリスクが高い。スターのケガやチームの低迷が、そのまま市場の崩壊に直結しかねない。大谷がケガによりシーズンをすべて棒に振ったなら、こうしたデータは、どう変化するのだろう。その経済的インパクトを想像するだけで恐ろしい。


