「1.7兆円の壁」とリバウンド需要の終焉
まず直視すべきは、マクロな市場規模の推移が示す「成長エンジンの停止」にある。
2024年の調査において、日本のスポーツ参加市場規模は前年比24.0%増という驚異的な伸びを記録、約1兆7257億円に達した。これは、長きにわたるコロナ禍による自粛からの反動──いわゆる「リベンジ消費」だったと見るべきだろう。スタジアム観戦市場に至っては前年比57.0%増という、異常値とも言える成長を見せた。スタジアムには歓声が戻り、誰もが「スポーツビジネスは完全に復活した」と信じた。
しかし、25年はいかがか。市場規模は1兆7151億円。前年比0.6%の減少、実質的なマイナスに転じた。インフレが進行し、あらゆる物価が高騰する中、「横ばい」は、実質経済において明確な「後退」を意味する。
スタジアム観戦にかかる出費(チケット代、交通費、飲食費、グッズ費、記念品等費/n=392)
成長の核でもある「スタジアム観戦市場」が、この1年で縮小に転じた。25年のスタジアム観戦市場は7678億円で、前年比5.8%の減少。注目すべきは、ファン一人当たりの財布の紐の固さだ。チケット代の支出こそ、価格高騰の影響もあり前年比で微増(+1.5%)している。しかし、ファンエンゲージメントの深さを測るバロメーターである「グッズ費」は前年比23.6%減、「記念品等費」は15.2%減と、大きな落ち込みを見せた。24年にはグッズ費が前年比25.5%増と伸びただけに、この落差は強烈だ。
これは何を意味するか。24年のスタジアムへの回帰は、あくまで「久しぶりにイベントへ」という一時的な渇望であり、チームやリーグへの深いロイヤリティに基づいた持続的な消費行動ではなかったという意味だろうか。また「チケットは買うが、グッズを買う情熱はない」。そんな「冷めた観客」がスタジアムを埋めている現状なのだろうか。我々は、新型コロナ感染症蔓延の余波からの回復というボーナスステージを終え、成熟しきった、あるいは飽和した市場の現実と対峙しているのかもしれない。


