「ここ数年でダンス業界は激変しています」。23歳で渡米し、マドンナのステージダンサーとしてワールドツアーに参加、振付家としても業界トップを走る上野隆博はそう語る。
「最も大きな理由はデバイスの変化です。スマートフォンの普及と高速・大容量の通信が可能になったことで、今まで耳で聴いていた音楽が『目で見る』時代になり、プロモーションビデオなどでアーティストがダンスを見せる機会がより増えました。YouTubeやTikTokでも大勢の人がダンスを披露し、2024年にはオリンピックの正式種目としてブレイキンが追加されました。小・中学校の義務教育にも取り入れられて10年超、今や日本のダンサー人口は1000万人ともいわれます。しかし高まる需要に対してダンスのつくり手は少なく、人材が枯渇しています。ダンスを振り付けるコレオグラファー(振付師)、さらに映像作品や舞台でダンスパフォーマンスをつくることができる人材を育てる必要があります」
上野が主宰するダンスエージェント「インフィニティ」には現在15人のコレオグラファーが在籍。ダンサーや指導者の育成のみならず、コンサートや舞台を設計する「総合ステージング」を請け負う。「おそらく日本で唯一のノウハウを持ったプロ集団です」。
2010年代中盤、日本でまだダンスが職業として認知されていなかった時代からダンサーの育成と活躍の場を広げようとスクールを開き、振り付けやステージングのノウハウを独学で構築。アメリカ時代にブロードウェイで見たステージやマドンナのツアーで経験した「見せ方」のテクニックを紐解き、研究を続けた。同時に「人間が本能的に感じる感覚」もダンス表現に取り入れた。
「自分の目の前に相手の顔がグーッと近づいてくると、圧迫感を感じますよね。この感覚を利用して集団を前に進めることで力強さを表現できる。ほかにも、人間は普段心臓よりも高い位置に手を置くことはないので、手を高く上げると生命力を感じ、エネルギッシュなパフォーマンスになるのです」
振付師として、欅坂46をはじめこれまで200作品以上の映像やステージ制作にかかわってきた。その経験値とフィードバックが財産になっている。
「映像作品ではカメラの画角を考えたダンスをつくらないといけません。例えば前に人がいて、その奥にピントを合わせるときにどういう動きをすればカメラ映えするのか。正面から集団を写すときは四角形ではなくV字型に三角形に広がらないと美しく映らない、というようなことです。東京ドームのステージで50mの花道を歩くときには、1曲をどのくらいの速度で歩けばそこに着くのかを計算する必要があります。こうした現場での経験をもとにしたデータをもっていることが弊社の強みで、10年かけてノウハウをアップデートし続けています」
イメージを言葉で可視化する
ダンスの振り付けと経営には共通点があるという。それは「言葉で相手に伝える」こと。そこで心に留めておくべきなのが、「現象」と「印象」の違いだ。
「現象とは、客観的に起こっている事実でしかありませんが、印象はその事実を見たときに深く心に感じ取ったものを指します。ダンスで言えば、ただ右から左へと動くだけでは『現象』でしかない。切ないのか、苦しいのか、力強いのか──見る人の心を動かす『印象』を生むための動きをダンサーに伝える必要があるんです」



