では自分のもつイメージを理解してもらうために、具体的にはどのような方法を取っているのだろう?
「まずは曲や歌詞の世界観・感覚を共有することから始めます。あるときは『主人公がひとりで教室にいます。そこに夕日が差し込んできて、空に鳥が見えた。どんな感覚になりますか?』と話す。するとアーィストの向かう方向が大きくひとつになって大きなエネルギーを生み出すことができます。逆にそれぞれの解釈を大事にするアプローチをすると、全体の世界が大きく広く見えるようになります」
体の動きにはより明確な「言葉」を使う。
「人間は驚くほど指示語を使いがちなんです。でもダンサーたちに『ここでくるっと回って、次はあっちね』と言ってもまるで伝わりませんよね。でも『自分から向かって左に2歩、10kgのおもりをもったような感覚で移動してみてください』といえば、どういう動きかが伝わりやすい。自分のなかで完結しているイメージを、相手の頭の中でも再現できるように言葉で可視化することが大事なんです」
これはダンスだけでなくコンサート会場でさまざまなスタッフと共同作業をするときや経営者としての仕事でも同じだ。
「かつてコンサートの設営中につい『もうちょっと向こう側です』と言って、遠くにいるスタッフに『どっち側ですか?』と聞き直されたりしました(笑)。『センターから10cm斜め上手に移動してください』と具体的な言葉で言い直しましたね。『伝わる言葉』とは、目を閉じてもはっきりとその状況が見える、情景が浮かぶもの。これは経営者が会社のビジョンを社員に向けて語るときなどにも、非常に重要な考え方だと思います」
「言葉のピント合わせ」を的確に
「あとは『話が長いな』と思われないように、説明言葉をコンパクトに、かつインパクトをもたせること。お互いの関係性やシチュエーションに合わせて共有できている部分は省略して伝える『言葉のピント合わせ』を的確にすることも心がけています」
ダンス界のトップランナーとして今、日本のエンターテインメント界に望むことがある。「まだまだ日本ではエンターテインメントと社会が切り離されている気がします。見る人を元気にするエンターテインメントは心の薬だと僕は信じています。もっとエンターテインメントが日本の力になれるように、そして世界に向けて発信できるような状況になるよう尽力したいです」。
うえの・たかひろ◎ダンサー、振付師。2004年に渡米、ニューヨーク アポロ・シアターのNBC放送テレビコンテストで9大会連続優勝し、プロデビュー。アメリカの歌手・マドンナのワールドツアーなどで活躍し、Newsweek誌「世界が尊敬する日本人100」にも選出された。アイドルグループ・欅坂46の全表題曲振付を手がけている。


