CES 2026は、AIを「語る」場から、AIを「配備する」場へと相貌を変えた。
数年前まで目立っていたのは、ビジョンを見せたり、“このようになっていく”といった将来像を見せ、希望を抱かせるデモが多かった。しかし今年は製品への導入を前提にした設計がなされ、さらにAIを用いるためのコストやガバナンスまで含めた配慮が各社の発表に滲んでいた。
AIトレンドは“概念”から、具体的な製品やサービスへの“実装”へ移ったとも捉えられる。しかし、むしろ具体的な価値へと結びつく実装にしないと、将来の事業構築を語る上で話にならない段階に入った、といった方が近い。
そうした空気を、データセンターからエッジまで一気通貫の戦略としてまとめて見せたのが、Lenovoの年次イベント「Tech World」だった。
同社が基調講演で掲げた「AI for All」は、よくある”標語”ではない。
PCやスマートフォンを、パブリックAIへ安全に接続するための“ゲートウェイ”として再定義し、端末、クラウド、企業インフラを一本の筋でつなぐ役割を持つものとして位置付けようとしているのだ。ハードウェア企業が、AI体験の主導権を取り戻そうとする動きともいえるだろう。
ハイブリッドAIがもたらす現実解
クラウドAIの競争が激しくなるほど、ユーザーの手元にある(クラウド上にはない)データの価値は相対的に上がる。Lenovoが主戦場を「エッジ」へ引き戻そうとするのは、プライバシー、遅延、コストという現実に正面から向き合った結果だ。
鍵となるのが「ハイブリッドAI」である。同様の戦略はアップルがパーソナルコンテキストAIとして展開しようとしているが、まだ実現できていない。
基調講演でヤン・ユエンチン会長兼CEOが提示したビジョンは明快だった。
誰もが使える「パブリックAI」、企業固有のデータで最適化される「エンタープライズAI」、個人の文脈を深く理解する「パーソナルAI」。
この三層を分けて利用してもらい、必要なときだけに個々のAIを連携させる。個人的な情報や企業内の情報をどうAIで扱うかは、AIを普及させる上で避けがたい議論だ。その制約を、製品実装のルール設計で乗り越える発想である。
ヤン氏はLenovo独自のAIとして発表した”Qira”を、使うほどに嗜好や経験を学び「あなたのdigital twin」へ育つ存在だと位置づけた。
個人の文脈や機微情報は端末内に完結する形で学習しつつ、汎用知識や重い推論はクラウドへ逃がす“ハイブリッド”設計がコンセプトの根幹にある。ヤン氏が言う「cognitive partner(思考の相棒)」は、デジタルツインの概念を“個人の意思決定”へ持ち込んだものと考えると理解しやすい。
Lenovoが今後投入するデバイス、整備するインフラ、パートナーシップにより連携するサービスは、すべてこの設計思想に沿って構築していくことになる。



