ハッブルの危機は老朽化だけでない。2025年5月にはトランプ大統領により、NASAの2026年度予算を4分の3(188億ドル)に圧縮する案が提示され、とくに天文などの科学ミッション(SMD)は前年比47%のカットが要求された。結果的にその予算要求は上下院に受け入れられず、ほぼ昨年同等の予算が確保されそうだが(執筆時未確定)、こうした公的資金の障壁を経験した米国においては、宇宙望遠鏡を民間資金で運用することは、健全な運用形態として今後は認識されるだろう。
ラズリと連携する3つの地上施設
ラズリ宇宙望遠鏡とともに「シュミット観測システム」を構成する地上施設は、「アーガス・アレイ」「DSA」「LFAST」の3施設であり、それぞれが新規に建設される。
「アーガス・アレイ」は、ノースカロライナ大学チャペルヒル校が設計・建設・運用を主導する。現在テキサス州に建設中であり、2027年の完成が予定されている。1200基の小型光学望遠鏡で構成される同天文台は、直径8mの大型望遠鏡と同等の観測能力を発揮する。夜空の約20%(8000平方度)を一度に撮影することができ、その解像度は4km先の1円玉(1秒角)が識別できるほどシャープだ。こうした画像を1〜60秒ごとに撮影し続け、北半球の天体について数百万枚におよぶ120ギガピクセルの画像を撮影し、史上初の深宇宙高速動画を作成する。このデータはリアルタイムで世界中に共有されるという。
「DSA」(ディープ・シノプティック・アレイ)は、カリフォルニア工科大学が主導機関となり、ネバダ州に建設され、2029年の運用開始が予定される。この施設は1650台のパラボラアンテナを砂漠に展開する電波望遠鏡であり、直径250m級の超大型望遠鏡と同等の集光力を誇る。DSAは超高速かつ超広範囲に夜空を撮影し続けることが可能な、いわば超高速4K動画カメラのような電波望遠鏡だといえ、かつてないこのスペックで10億以上の天体を検出する。
「LFAST」とは、「大型ファイバーアレイ分光望遠鏡」の略称であり、アリゾナ大学が主導機関となり、アリゾナ州に建設される。初期段階では直径約76cmの小型望遠鏡を2640基配置し、1200平方メートルの集光面積を確保。そこで得られた光を光ファイバーで中央施設の分光器に集積する。LFASTの集光能力は欧州の巨大望遠鏡「ELT」(直径39m)と同等だが、その建設コストは10〜20分の1程度に収まると試算されている。このLFASTによって系外惑星の大気組成や遠方の銀河の組成を詳細に調べるとともに、超新星や中性子星の合体などの刹那的なイベントも追跡する。
近年急速に高性能化するAI技術を前提に、ハイスペックかつ低コストに構築されるこれらの天文台が、今後の天文学分野に新たな可能性を提供することになるだろう。


