「AI基盤を開発している各社はスペック競争を繰り広げているが、次の競争軸は『データの中身』になる。それにともない、起業家の課題解決の考え方にも変化が必要だ」
連続起業家でありスタートアップ投資家の孫泰蔵氏は、スタートアップ企業の海外展開を支援するEndeavor Japanが11月21日に開催した「Endeavor Japan Summit 2025」に集まった聴衆にそう呼びかけた。
AIを取り巻く環境が一層変化していくことが見込まれる2026年、起業家たちは、どのような姿勢で事業構築に取り組んでいくべきなのか。そのヒントは、米国やアフリカでのドローン配送を実現させた米Ziplineが立てた「問い」にあるという。孫氏が同イベントの基調講演で語った内容からお届けする。
AIが次に学習するのは「ローカルデータ」「現場知」
これまでのAIは、テキスト、画像、動画といった、インターネット上にある公開データを大量に学習してきました。GoogleやOpenAIのような大手テック企業は、すでにそれらをほぼ取りつくしています。次にAIが学ぶのは、まだデジタル化されていない「ローカルデータ」や「現場知」です。
地域特有の慣習や、技術者や医療現場の経験や勘、特定業界の深い知見──。こうした、価値が高いにもかかわらず、データとして整理されていないものを学習することで、AIはより賢くなり有用なものとなります。
AIは単なる便利ツールから、産業を再設計するエンジンへと変貌を遂げつつあり、スタートアップをやろうとしている人たちにとっては、いまが新たなことを始める絶好のタイミングです。特定領域に深く根差した知見を携えたAIを使うことで、国境を越えた社会課題を解決できるチャンスがいままで以上に生まれています。
ドローン配送の米Ziplineはなぜゲームチェンジャーになれたか
そうした課題に取り組むうえで、起業家にとって重要になるのは、「問いの立て方」です。従来、多くの人は、課題に対して「この問題をどう解決するか」と考え、論理的な方法が見つかったらそれに取り組むというアプローチをとりますよね。私はさまざまな起業家をみてきましたが、本当に大きな課題を解決する優れた起業家は問いの立て方が異なります。「前提そのものを変えられないか」「問題の定義自体を別の形にできないか」と考えるのです。
具体例を挙げましょう。米国やアフリカでドローン配送サービスを手がける米Zipline創業者のケラー・リナウドはいつも、「どう物流コストを下げるか」ではなく、「そもそも冷蔵庫がいらない世界は成立するか」という問いを考えていました。ドローンで24時間365日、悪天候のなかでも配達してもらえるなら、生鮮食品でさえも冷蔵庫に保管する必要はないということです。彼らはそれを真剣に考え、実現した。これこそが真のゲームチェンジャーです。
また、米Novoloopは、プラスチックを高性能な化学物質や材料に変える技術を生み出しました。「プラスチックごみを減らすにはどうすればよいか」ではなく、「そもそもゴミが出ない社会はつくれないか」と、問題を再定義したのです。
今後10年間は、私たち起業家にとって最もエキサイティングな時期の一つになるでしょう。 起業家たちの挑戦は単なる企業構築ではありません。これから生まれてくる「領域特化型AI」を武器に、産業構造を再構築していくチャレンジです。



