2007年、スウェーデンに移住した宮川絢子博士は、スウェーデン・カロリンスカ大学病院・泌尿器外科勤務の医師である。日本泌尿器科学会専門医取得後、スウェーデンで泌尿器外科専門医を取得している。
最近の日本での事態を受けて
先日から、日本の中学校や高校での暴力事件の動画がSNS上で拡散され、社会に大きな衝撃を与えています。倒れた相手の頭部を蹴る、複数人で一人を取り囲むといった暴力行為が映像で明らかになり、加害者は特定され、学校や保護者だけでなく文部科学省も緊急会議を予定するなど、大きな社会問題として報道されています。
SNS拡散により、被害の状況や加害者の特定は瞬時に社会に伝わりますが、同時に被害者や加害者の個人情報が広まり、二次被害や心理的負担が生じるリスクも指摘されています。
こうした事件は単に「個人の異常行動」として片付けることはできません。学校での暴力は家庭環境や社会の価値観、教育制度の仕組みとも深く関わっており、社会全体で子どもを守る仕組みの在り方が問われています。
本稿では、スウェーデンの教育と制度に焦点を当て、幼児期からの教育、学校・警察・社会福祉の連携、子どもに選択肢を与える文化がどのように暴力予防につながるのかを解説します。
SNSで可視化される暴力とその限界
SNSによる暴力の可視化は、従来の学校報告制度では見えにくかった現実を社会に伝える役割を果たします。映像や投稿により、暴力の状況が瞬時に広まり、社会の関心を喚起することもあります。
しかし、SNSは情報拡散の手段であり、被害者を守る仕組みではありません。未成年者の個人情報や顔が拡散されるリスク、被害者の心理的負担、学校や家庭が抱える対応の複雑さは解消されません。制度と文化の両面から、子どもを安全に守る仕組みが必要です。
見えにくい、「言葉による暴力」
学校での暴力は、殴る・蹴るなどの身体的行為だけではありません。悪口、無視、嘲笑、威圧的な言動、SNSでの中傷など、言葉による暴力も深刻な影響を与えます。外傷がないために軽視されがちですが、長期的には不登校や抑うつ、さらには自殺念慮につながる場合もあります。
暴力を「目に見えるかどうか」で判断してしまう危うさがここにあります。
家庭環境と暴力への閾値
家庭や社会環境は、子どもが暴力をどの程度許容できてしまうかに影響します。家庭内で体罰や暴力が日常化している場合、子どもはそれを「仕方ないこと」と認識し、学校での暴力行動に結びつく可能性があります。また、被害者も甘んじて暴力を受け入れてしまうこともあるでしょう。
スウェーデンでは、いかなる家庭内暴力や体罰も禁止されており、家庭環境に問題がある場合は学校や社会福祉が介入します。日本でも2021年に体罰禁止法が施行されましたが、家庭内暴力の影響が完全に解消されているわけではありません。



