広告需要の急増に合わせて番組を増やし、強力なスポンサー収入を確保
こうしたタレント主導型のネットワークが成立する背景には、きわめて現実的なビジネス判断がある。需要が想定以上に伸びているなら、それに応じて供給を増やすという発想だ。パンデミックの中、iHeartの担当者がカウハードに対し、彼の番組は「広告枠がすでに数カ月先まで売り切れている」と伝えた。そこで両者は、カウハードの看板番組に頼るだけでなく、新たな番組を複数立ち上げて放送時間自体を増やすことで合意した。iHeartはそれらの新番組に広告を販売し、その収益の一定割合を得る。需要の強さを前提に、事業規模を広げる仕組みがここから生まれた。
この戦略は、今やiHeartのポッドキャスト事業の柱の1つとなっている。同社は、「Big Money Players」を率いるウィル・フェレルや、「Shondaland」で知られるションダ・ライムズ、「Pushkin」を手がけるマルコム・グラッドウェルといった著名人と組み、ネットワーク型の合弁事業を次々と立ち上げてきた。
立ち上げ時から大手ブックメーカーを冠スポンサーに迎える
ポッドキャストで継続的に収益を上げるのは簡単ではない。そうした中で「ザ・ボリューム」は、2021年の立ち上げ時から、米国でオンラインスポーツベッティングを手がける大手のFanDuelを、全番組共通の冠スポンサーとして迎え入れた。これによりカウハードは、事業の立ち上げ段階から一定規模の収入を見込める体制を整え、その資金を使って会社作りに集中することができた。
FanDuelとの契約は2023年に同業のDraftKingsへ引き継がれ、同年9月にはHard Rock Betへと切り替わった。同社によると、スポンサー契約は更新のたびに条件が改善しており、フォーブスは現在の契約による収入を年間500万ドル(約7億9000万円)超と推計している。
カウハードはテレビとラジオで結んでいる高額な個人契約を背景に、会社の運営資金をすべて自己資金で賄ってきた。その結果、従業員の一部に付与したごくわずかな持ち分を除き、株式のほぼすべてを保有しており、経営判断もほぼ単独で下せる立場にある。
「私はオーナーであり、創業者だ。取締役会に説明する必要はない。自分の直感と関心に従って事業の方向性を決めている」とカウハードは語る。
クリエイターの独自性を尊重し、番組ごとに異なるファン層を形成
しかし、創業者の価値観や個性を前面に押し出し、それを軸にネットワーク全体のカラーを固める他の多くのタレント主導型事業とは、カウハードの発想は一線を画す。たとえばグレン・ベックが率いる「TheBlaze」は右派政治に特化し、デイブ・ポートノイの「Barstool Sports」はスポーツやセックス、ピザといった学生ノリの話題を中心に巨大なブランドを築いてきた。一方でカウハードは、自分の分身のような番組ばかりを集めたネットワークを作ろうとはしなかった。
ザ・ボリュームが目指しているのは、クリエイターがそれぞれ独自の色や世界観を保ったまま、ファンを広げていける運営基盤だ。扱うジャンルやテーマに制約はない。NFLを掘り下げる「ザ・リチャード・シャーマン・ポッドキャスト」のリスナーが、NBAを中心に語るジェフ・ティーグの「Club 520」も自然に聴くというような想定は立ててない。むしろ、番組ごとにまったく異なるファン層が形成され、それぞれが独立して成長していくことを望んでいる。
収益配分と最低保証を柔軟に調整し、市場での高額な争奪戦を回避
こうした番組単位の自立性こそが、「ザ・ボリューム」が新たなクリエイターに提示する大きな魅力でもある。契約では、ポッドキャストの収益を分け合う一方で、年間の最低保証額を設定する方式を採用しており、その条件は柔軟に調整される。高い保証を選べば収益の取り分は2割程度に抑えられることもあるが、保証を受け取らない場合には、最大で7割を手にできるケースもある。
ポッドキャスト事業では、コストの大半を出演者への報酬が占める。そのため、2025年にザ・ボリュームが全体として黒字を達成した背景には、制作インフラ以上に、誰を起用するかという判断が大きく影響している。同社も、この黒字化が過去すべての年で実現していたわけではないと認めている。一般的に、年間100万ドル(約1億5800万円)の最低保証を得られるホストはまれだが、市場の最上位では、すでに実績のある著名人が競争の末に1000万ドル(約15億8000万円)、場合によっては3000万ドル(約47億円)もの最低保証を勝ち取ることもある。ただ、そうした大型番組の多くは採算が合わず、ネットワークにとっては、次の才能や有力スポンサーを呼び込むための“看板”としての役割を担っているにすぎない。
少なくともこれまでのところ、カウハードはその路線を選んでいない。注目を集めた番組である「ザ・ドレイモンド・グリーン・ショー」や、シャノン・シャープの「Club Shay Shay」は、初期契約の満了後にネットワークを離れている(もっとも、最近性的暴行と暴行の疑いで訴えられたシャープの場合、その背景は必ずしも金銭面だけではなかった)。
「市場の最前線に飛び込んで、高額な争奪戦を繰り広げることが正解だとは思っていない」とカウハードは語る。「世の中には、実力があるのに十分に評価されておらず、売り出し方も制作体制も整っていない才能がたくさんある。我々は、そうした人材を見つけ出すことに力を注いでいる」。


