テクノロジーとそれを支える人間力をベースに不動産業界やM&A業界の課題に切り込み、急成長を遂げている「GA technologies」。そんな同社の経営陣7名のミッションや経営信条を、7回にわたって紹介する。6人目は、イタンジ 執⾏役員 CTOの大原将真だ。ITANDI事業の技術部門を統括する大原に、開発哲学やオープンプラットフォーム戦略の推進について話を聞いた。
GA technologiesグループのイタンジは、テクノロジーによって、不動産業界を変革してきた。不動産会社同士の物件情報と入居手続きをオンラインでつなぐリアルタイム不動産業者間サイト「ITANDI BB」を中心に、「ITANDI賃貸管理」「ITANDI賃貸仲介」などを提供している。そうしたサービス群の開発を束ねるのが、同社執⾏役員 CTOの大原将真だ。
証券マンからエンジニアに転身
大原は、証券マンからエンジニアに転身した異色の経歴をもつ。学生時代からプログラミングを勉強していたが、国内におけるビジネスの“最前線”を学ぶべく、新卒で野村證券へ入社し営業として従事。一方で自らの手でゼロから価値を生み出せる「ものづくり」への情熱は絶えず、趣味でアプリを開発していた。
その後、大原はエンジニアとして転職し、EC開発に携わるように。そこでエンジニアとしての実績を積む中で、次第に「より社会的影響力の大きい大規模システムの開発に携わりたい」という思いが募るようになる。その思いを実現する舞台として選んだのが、イタンジであった。
「不動産業界は市場規模が大きく、住居というテーマは社会的意義も大きい。グループ会社を含めて、イタンジの向かう方向性が自分の目指す未来と一致していました」
2020年の入社後、基盤プロダクトの開発などを担当しながら、次第に組織やプロダクト全体のマネジメントを任されるようになる。そして23年、CTOに就任した。
そんな大原の開発思想の根底には、常に顧客を第一に考える姿勢がある。
「最も大事なことは、エンジニアリングを通して生み出したサービスが、ユーザーにとって価値のあるものであること。それを無視して物事の意思決定をすることがないよう、心がけています」
それは、イタンジの行動指針「Is there Value?(それに価値はあるのか)」にも重なる。さらに、もうひとつの行動指針「Crazy Enough?(それはクレイジーか)」も不動産業界の変革には欠かせないと大原は言う。
「不動産業界には長い歴史があり、私たちは古い商習慣をドラスティックに変えていこうとしています。それには常識にとらわれた発想を超えていかなければならず、“クレイジー”な発想が必要なのです。ただその発想だけでは、つくり手の独りよがりなサービスに陥りかねません。イタンジの開発に対する姿勢は、“クレイジー”な発想と、ユーザー価値の両輪で成り立っています」
そして、ユーザーの価値を最大化するために同社がとっているのが「オープンプラットフォーム戦略」だ。
「自社利益だけを考えると、『情報や顧客を囲い込みたい』と考えますよね。しかし私たちの目的は、『不動産取引をなめらかにする』こと。つまり業界のインフラになることを目指しています。自社だけでやるのではなく、他社のシステムとシームレスにつながりながらお客様にサービスを提供していくほうが、お客様にとってより良い体験になると考えているからです」
その戦略を推進するために大原が描いているのは「ワンアカウント」による利便性向上だ。
「お客様にとって、サービスごとにアカウントを管理することは煩わしく、利便性が下がります。多くの方にお使いいただいているITANDI BBのアカウントでほかのサービスも使えるようになる、いわば『ITANDI経済圏』を構想しています」
さらに大原は、イタンジの創業から10年が経ちさまざまなサービスを開発するなかで、同社のシステム基盤に蓄積した「技術的負債」を「富」に変えようとしている。
「負債の解消というとコストに見えますが、当社では『攻めの投資』と捉えています。この10年分の負債には、業界特有のドメイン知識が詰まっています。これを現代的な技術でリアーキテクチャ(再構築)すれば、ただ綺麗になるのではなく、新しいビジネスを生み出せる武器に変わると考えています」
「不動産データ×AI」で顧客の意思決定を支援
イタンジのテクノロジーを語るうえで欠かせないのが、プログラミング言語「Ruby」の存在だ。同社では創業から10を超えるプロダクトをほぼすべてRubyで開発している。その実績が認められ、「Ruby biz Grand prix 2024」で大賞を受賞した。これは、Rubyを活用してビジネスの領域で新たな価値を創造し、今後の発展が期待されるサービスなどを表彰する大会だ。
「記念すべき10回大会で大賞をいただいたことを誇りに思います。数々のプロダクトをスピーディーに創出することができたのは、Rubyの開発のしやすさやエコシステムの確立が背景にあります」
そして今、イタンジは「利用する側」から「貢献する側」へと踏み出している。
「Rubyコミュニティへの最大の貢献は、Rubyを使って日本発の世界レベルのサービスをつくり上げることだと考えています。その開発を経て得た知見をコミュニティにフィードバックすることで、技術へ恩返ししていきます」
組織づくりにも携わる大原は、採用のための広報活動も行う。Rubyに関するイベントへの参加もそのひとつだ。
「Rubyを使える即戦力人材の確保のため、まずはRuby界隈で知名度を高めようと、カンファレンスへの出展やイベントスポンサーなども積極的に行っています。業界での認知度は上がってきているので、当社がRubyを使っている会社であるというだけでなく、データを扱う会社でもあることも認知させていきたいです」
テクノロジーの観点から見れば、AIも重要なファクターのひとつだ。AIについて大原は、イタンジの強みである膨大なデータとAIの掛け合わせに勝機を見出している。
「多くのSaaSは、取引プロセスの中の『点』のデータしかもっていません。しかし当社のサービスは、募集から内見、入居申込、契約、そして更新・退去に至るまで、不動産取引の全行程をシームレスにつなぐインフラとして機能しています。取引を『線』として捉えたデータとAIを掛け合わせることで、ユーザーの意思決定をこれまで以上に高度にサポートでき、業界のインフラとして、取引構造そのものを変えていけると考えています」
さらに大原は、開発におけるAIの活用についても独自の視点をもつ。求めるのはスピードよりも「質」だと語る。
「『速い』『楽になる』だけを重視してしまうと、価値のないものが大量生産されてしまいかねません。私たちがAIに求めるのは『質の深化』です。膨大なデータを学習したAIに壁打ちすることで、人間では見落としていたエッジケース(極めて特殊な状況下で発生する可能性のある問題)に気づいたり、新しい視点を得たりすることを優先しています。そのためには、最初はスピードが落ちても構いません。個人の知見をチーム全体のナレッジへと昇華させることで、最終的にはより良いものをスピーディーに開発できるようになるからです」
テクノロジーのアップデートを追求し続けるイタンジにとって、エンジニアに求められる要素は何なのか。意外にもその答えは、「情熱」だと大原は言う。
「最初から不動産に関心があるエンジニアは、それほど多くありません。だからこそ、トップを筆頭に、当社が高い熱意をもって事業に取り組んでいることに共感してもらうことが非常に大事だと考えています。『GRIT(やり抜く力)』と『WILL』をもつエンジニアたちが誇りをもち、情熱を注げるプロダクトを夢中になってつくり続けることが、最終的に価値あるプロダクトへとつながる。そんな達成感を実感できる組織づくりを推進しています」
大原が入社した頃、エンジニアは20名程度だったが、今では倍以上に増え、100人体制を目指している。大原はそんな「GRIT」と「WILL」をもつエンジニア集団を率い、どのように開発を進めていこうとしているのだろうか。
「これまではスタートアップとして、ある種“勢い”で開発してきましたが、今の私たちがつくっているのは業界のインフラです。お客様の業務や生活を支え続けられるサービスを提供しなくてはいけません。そのためには、開発組織だけでものづくりを考えるのではなく、直接お客様に接しているメンバーともコミュニケーションをとり、今よりもさらにお客様のニーズを反映させていくプロセスを構築する必要があります。その体制が整えば、ユーザーにとっての『本当の価値』につながっていくはずです」
GA technologies
https://www.ga-tech.co.jp/
おおはら・しょうま◎イタンジ執⾏役員CTO。野村證券に総合職で入社し、リテール業務に従事。その後エンジニアに転身し、ECサイトの開発責任者やB2B向けシステムの新規立ち上げの開発・運用に携わる。2020年にイタンジに入社し、主に基盤プロダクトの開発、SREの責任者を担当。23年より現職。




