経済危機に陥った国の国債回収で実績、割安な取得価格がもたらす勝算
エリオットは、経済危機に陥った国の債務(ソブリン債・国債)を対象とする投資で豊富な実績を持つ。創業者のポール・シンガーは、2001年のアルゼンチン経済危機後に同国国債を取得し、10年以上にわたる法的な争いを経て、2016年に回収を実現した。エリオットは、額面6億1700万ドル(約969億円)の債券を1億1700万ドル(約184億円)で取得し、最終的に24億ドル(約3768億円)を回収していた。
オークツリー・キャピタル・マネジメントも2010年、ベネズエラで経営難に陥っていた海底油田サービス会社を買収し、PDVSAを相手取った国際仲裁で勝訴した結果、6億4400万ドル(約1011億円)を回収していた。
一方、グレッグ・ゴフは、旧シトゴの事業を細分化して売却するつもりはないようだ。ゴフは、日量約80万バレルを処理してきた旧シトゴの製油所を保有し、設備投資と運営改善を通じて事業を強化する方針を示している。「優秀なシトゴのチームとともに、資本投資とオペレーションの卓越性を通じて事業を強化していくことを楽しみにしている」と彼は、アンバーが出した唯一のプレスリリースで語っていた。
制裁が導入される以前、シトゴの製油所は、硫黄分の多いベネズエラ産の重質原油を処理することを前提に設計されていた。米国の制裁によって同国産原油の輸入が止まり、原油の調達先は米国やメキシコ、カナダに切り替えられたが、制裁が解除され、割安なベネズエラ産原油を再び調達できるようになれば、収益性が大きく改善する余地がある。
企業価値は最大約2兆円の試算、EBITDA倍率でも割安な水準
エリオットがシトゴの取得に支払うのは59億ドル(約9263億円)だが、裁判所資料に引用されたアナリストの試算では、同社の企業価値は110億〜130億ドル(約1.7兆〜2兆円)とされている。ベネズエラ側は、長期的な成長余地を前提に180億ドル(約2.8兆円)と主張しており、現在の取得価格は、こうした評価と比べると低い水準にある。
直近1年間では、シトゴのEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は約10億ドル(約1570億円)だった。この水準を基にすると、アンバーはEBITDAの約6倍で同社を取得する計算になる。米国の大手精製会社バレロやマラソン・ペトロリアムの株式は、市場でEBITDAの10〜11倍前後の水準で評価されており、それと比べても今回の取得価格は割安だ。ただ、より小規模な同業他社のPBFエナジーやデレックは、収益が低迷しているために(倍率が計算上)かなり高く取引されている。これら小規模な企業は高く評価されているわけではなく、単に不調で利益が出ていないため計算上の数値が異常に高くなっている。
別の観点として、日量処理能力1バレル当たりの価値を比較することもできる。シトゴは日量80万バレルの処理能力を持ち、取得額59億ドル(約9263億円)を基にすると、1バレル当たりの価値は約7300ドル(約115万円)となる。これに対し、15の製油所で日量320万バレルを処理するバレロ・エナジーの時価総額は約520億ドル(約8.2兆円)で、1バレル当たりの価値は約1万6000ドル(約251万円)に相当する。
規模が近い精製会社でも、市場はより高い企業価値を付けている。日量70万バレルの処理能力を持つHFシンクレアの価値は、1バレル当たり約1万5000ドル(約236万円)、日量40万バレルのデレックは約1万3000ドル(約204万円)とされている。ゴフと経営陣が操業効率を改善し、現在の年間約10億ドル(約1570億円)のEBITDAを拡大できれば、アンバーの企業価値が数十億ドル規模で押し上げられる可能性がある。割安なベネズエラ産原油を調達できれば、その効果は一段と大きくなる。
アンバー、エリオット、スティーブンスはいずれも、取引がまだ成立していないことを理由に、公式なコメントを控えている。スターク判事の判断が控訴審で覆される可能性や、地政学的な情勢変化によって売却条件が再検討される余地が残っているためだ。ベネズエラのデルシー・ロドリゲス大統領代行は、シトゴの強制売却を認めない立場を繰り返し示し、スターク判事の判断に対して控訴している。国営石油会社PDVSAも、「シトゴは著しく低い価格で売却された」として、売却益の一部はベネズエラに帰属すべきだと主張している。
鉱山接収の損失を回収へ、ルソロなど債権者も利益を享受
もっとも、こうした主張に冷ややかな反応を示す関係者もいる。長年にわたり訴訟費用を負担し、法的手続きを積み重ねてきた債権者の側からすれば、今になって売却条件に異議を唱えるのは受け入れがたいからだ。その代表例が、アンバーの取引を通じて、転換社債を含め約16億ドル(約2512億円)を受け取る見通しのルソロ・マイニングの取締役ゴードン・キープ(69)だ。彼によると、同社の請求権は、2011年にチャベス政権が、年産約10万オンス規模だったチョコ鉱山を含む金鉱山を接収したことに由来する。
「当時のルソロは、自社の鉱山を持っていた」とキープは語る。取引が成立すれば、現在の時価総額約6億7500万ドル(約1060億円)を大きく上回る資金を株主に還元できる見通しだ。なお、残る約6億5000万ドル(約1021億円)の未回収分については、「別の回収手段を探すことになる」としている。


