食&酒

2026.01.15 09:15

やよい軒が仕掛ける新ブランド戦略。料理の紹介ではなく物語を展開

AdobeStock(写真はイメージです)

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定食レストラン『やよい軒』が、公式サイトで新たなコンテンツを公開した。

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タイトルは「食にまつわる12のストーリー」。1月から12月まで、それぞれの月を象徴するメニューを起点に、描き下ろしイラストを組み合わせたショートストーリーだ。

新商品やキャンペーンを告知するものではない。料理の特長や調理工程を説明する構成でもない。描かれているのは、季節と日本食をめぐるごく日常的な風景だ。

たとえば1月のストーリーは「しゃけの塩焼朝食」から始まる。正月と聞くと、少し特別な料理を思い浮かべがちだが、ここで描かれるのは、むしろ質素ともいえる朝の食卓だ。

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物語の中心にいるのは、朝食をともにする夫婦。なぜ正月にこの朝食なのか。なぜそれが彼らにとっての定番なのか。その理由は、日常の会話や所作の中で、静かに語られていく。

派手な出来事は起こらない。だが読み進めるうちに、食べるという行為が、暮らしの積み重ねや人との関係と結びついていることが伝わってくる。読み終えたあとに残るのは料理の説明よりも、穏やかな余韻だ。

料理ではなく、食卓の気配を描く

12のストーリーに共通するのは、料理そのものを前面に押し出さない点にある。味やボリュームではなく、食事が行われる時間や、そこに集う人たちの気配が描かれている。

定食という業態は価格や内容で比較や選択がされやすい。一方で同じメニューでも、どんな空気の中で食べるかによって記憶の残り方は変わってくる。この物語は、料理を説明ではなく「情景」として差し出しているようにも見える。

定食屋で起こる小さな物語

飲食店では、思いがけずちょっとした人間模様に触れることがある。実は筆者にも、やよい軒で印象に残っている光景があった。

ある日、ひとりでふらりと寄ったやよい軒。奥のテーブル席には部活帰りと思われる高校生たちがにぎやかに食事をしていた。制服を見ると筆者の後輩だった。男女合わせて8人ほどのグループで、席は4人ずつ、男女に分かれて座っていた。

男の子たちは勢いよくごはんをかきこんではおかわりしていた。一方、女の子たちは少し迷っている様子だった。「どうしよう」「でも、やっぱりおかわりしたいよね」。小声でやり取りしながら、ひとりが立ち上がると、ほかの女の子たちも続いておかわりに向かっていった。

男の子たちはそれを茶化すこともなく、自然に受け入れている。8人は和気あいあいと食事を続け、食欲旺盛な時期らしく、黙々と、時に笑いながら箸を進めていた。その光景がとても微笑ましかった。

かつて自分が彼らと同じ年頃だった頃、男子の前では「大食いと思われたくない」と、どこかで食べる量を控えていた記憶がよみがえった。時代が変わったのだろう。そう感じさせる、ささやかな場面だった。

「食にまつわる12のストーリー」を読んでいると、不思議とこの店の定番メニューが頭に浮かんでくる。筆者の場合は、味噌カツ定食だ。鉄板で運ばれてくる味噌カツは、味噌の一部がほんのり焦げ、目玉焼きの白身は端がカリカリしている。そうした細かな部分に、つい惹かれてしまう。このストーリー企画を読みながら、いつか味噌カツをめぐる物語も描かれるのだろうか、と想像してしまった。

難しいことを考えずに読める、やよい軒に集った人の静かなストーリー。読み終えたあと、いつもの定食が、少しだけ違って見えるかもしれない。

プレスリリース

文=福島はるみ

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