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エス・テー・デュポンのCEO、アラン・クルベ氏。1960年、仏パリ生まれ。フランスのビジネススクールを卒業後、プロクター&ギャンブル社ラテンアメリカの副社長、LVMH グループのパルファム ジバンシイの社長兼グループの執行役員を経て2006年よりエス・テー・デュポンのCEOに就任。

世界のカリスマを引き寄せる「原点注力経営」とは?

2006年にラグジュアリーブランド、エス・テー・デュポンのCEOに就任した
アラン・クルベ氏。ブランドの魅力をひときわ輝かせるに至った、独自の手法を語る。

いつも身に着けているものを見せてください、とお願いしてみたときのこと。
 
アラン・クルベはジャケットの内側のポケットからエス・テー・デュポンの万年筆を、パンツのポケットからライターをさっと取り出した。ブランドのCEOなのだから、自社の商品を持っているのは当たり前と思われるかもしれない。でも、これらは彼がCEOに就くはるか昔からこの世に存在し、親子3代にわたる思い出が詰まったものだった。

「ライターは祖父がくれたものです。週末にアルコールを片手に政治の話などをしながら、手にしていたのを覚えています。父もライターと万年筆を愛用していました。私が18歳になったとき、それらを譲り受け、今でも使っているんです」
 
自分には3人の子どもがいるからいつの日か彼らにも使ってもらえれば、と笑う。
 
すべての商品がフランスで、手作業でつくられる―。このブランドのアイデンティティこそがエス・テー・デュポンの最大の強みであり、このふたつの条件をクリアしている競合ブランドはほかにない。例えば、6層の純正漆を重ねて彩色したライター「ライン2 アトリエ ダークブラウン」は、フランスの職人が60時間をかけ作り上げた。光沢、色の深みによる繊細な模様が美しい。

「本当の意味での“高級品”とは、質が高く、世代を超えて受け継がれるべきものなのです」
 
とはいえエス・テー・デュポンは、伝統を重んじるばかりで現代性を取り入れられないようなブランドでは、決してない。むしろ逆。
 
2011年には、あの著名なファッションデザイナーのカール・ラガーフェルドとのコラボレーション商品を発表し世界的に話題を集めた。その翌年は漫画『ワンピース』の作者、尾田栄一郎とコラボしたコレクションを発表。そして今年9月にはザ・ローリング・ストーンズとのコラボレーションコレクションを世に送り出した。クルベは言う。

「でも、コラボ商品をつくりたいから、相手を見つけなければ、と必死で探し出したことは一度もないんですよ」
 
ラガーフェルドはエス・テー・デュポンのファンであることを公言していたから、自然と話がまとまった。尾田とのコラボレーションもそう。デュポンの職人技に魅せられた尾田は以前から銀座のブティックに何度も足を運んでおり、自然とコラボレーションの話が生まれたのだとか。
 
職人技を大切にすれば、それに魅せられた人々とのよき出会いが生まれ、ほかのブランドではまねできない唯一無二のコラボレーションが生まれる。職人を大切にする、というブランドの原点に注力すれば、才能ある人々が自然と惹きつけられ、思いも寄らない化学反応が起きるのだ。
 
この「原点に立ち返る」という考えは、ブランドをどのような方向に進めるかを探っていた時代に、クルベがたどり着いた答えでもあった。
 
彼がCEOの座についたのは2006年のこと。当時のエス・テー・デュポンは、プレタポルテに手を広げるなど、少しずつビジネスの枠組みを広げていた。男性用プレタポルテを売り出していたこともあり、このときは消費者の9割近くが男性だったという。創業者は、男女半々の客層をイメージしていたにもかかわらずだ。
 
そこでクルベは、ブランドの核であるライターと万年筆に集中することに決める。ブランドのルーツである革製品においても、力を入れるポイントを明確にし、創業140周年を迎えたタイミングで新たなコレクションとして発表した。
 
エス・テー・デュポンは、おもに贈り物として親しまれてきたブランドだ。ブランドのDNAを受け継ぐ商品に力を入れたことで、客の間にもそんな認識が再び広まった。女性向けのコレクションも発売し、顧客の男女比もほぼ同じに。いまでは幅広い年代の客が店を訪れる。
 
エス・テー・デュポンの、地域ごとの販売構成比。ポイントは「高価だが洗練されている商品特性が理解される国に集中することです」(クルベ)。母国フランスを中心にした欧州、アジアにも力を注ぎつつ中東も見据える。
エス・テー・デュポンの、地域ごとの販売構成比。ポイントは「高価だが洗練されている商品特性が理解される国に集中することです」(クルベ)。母国フランスを中心にした欧州、アジアにも力を注ぎつつ中東も見据える。

ブランドの知名度を考えれば、幅広くビジネスを展開してもおかしくなさそうだが、「カフェなどを手がけるようなブランドにするつもりはありません」とクルベはきっぱりと言い切る。

「エルメスがレストランを手がけたことはないですよね? それと同じです」
 
会社の規模も必要以上に大きくせず、“小さなメゾン”であることにこだわる。クリエイティブな集団であるために必要なことは、みなが情熱をもって取り組める環境をつくること。一般的に若い人々のほうが創造性は高いと考えるクルベは、若手を積極的にチームに引き入れる。本人の言葉を借りれば「小さい会社であることをうまく活かしているんです」。
 
少人数制を保つことで社内のクリエイティビティを高め、一方でファッションや漫画などまったく違う分野のカリスマ的な人物と仕事をする。それが、いまのデュポンの経営スタイルなのだ。
 
小さなチームなので、意思決定も速い。例えば、スワロフスキー・エレメントでスカル柄のデコレーションを施したライターは、日本法人のアイデアから生まれたもの。

「女性にも手に取ってもらいたいよね」「スワロフスキーでデコレーションしてみたら?」
 
すでに発売していたスカル柄のライターを前に、そんな会話から生まれた商品は日本で成功を収め、世界的にも注目を浴びている。
 
鮮やかなブルーのジャケットを着こなし、ちょっとだけゴツい指輪をはめたクルベは、その雰囲気から想像できる通りの「ロック好き」。一ひと度たび仕事を離れればギターを愛する、ミュージシャンでもある。日本を訪れる際は渋谷の小道をあてもなく歩き、街のエネルギーを全身に取り込む。
 
クルベの類いまれな感性が、創業100年を超える老舗ブランドに息を吹き込んでいる。


廣瀬順二(P122)、吉野洋三(P123) = 写真 古谷ゆう子 = インタビュー&文 青山 鼓 = 構成

 

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