放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」では、今夜も新しい料理が生まれ、あの人の物語が紡がれる......。連載第65回。
10月1日、監修している京都芸術大学通信教育部「食文化デザインコース」で、「万博特別講義アワード」を実施した。
募集したのは、大阪・関西万博で僕 自身が担当したシグネチャーパビリオン「EARTH MART」を通して考える、「食のミュージアム」のアイデアだ。「生産者への応援・励みにつながる」「食を通して、その土地への興味関心・愛着へつながる」「ガストロノミーツーリズムにつながる」のいずれかを含むことを応募条件とし、僕を含む4名の審査員の名を冠した賞を設定。表彰後には受賞者4名と審査員でパネルディスカッションも行った。
話が前後するが、EARTH MARTには「野菜のいのち」という展示があった。収穫して終わりではなく、枯れて種をつけるまで見守り育てる。そんな農業を40年以上実践されている長崎県雲仙市の農家・岩崎政利さんの畑から、自然乾燥された野菜たちを計画的に保存し、展示したものだ。着想のきっかけは、僕がかつて雲仙の野菜販売所「タネト」にて、命をまっとうして繊維だけになった大根と出合い、その姿に惹かれて写真に収めたこと。展示の構想にあたっては、岩崎さんの農業に共鳴して雲仙に移住し、タネトを開いた奥津爾さんに参加していただいた。
アワード受賞者のひとり、岡本和子さんは、この展示で普段なかなか目にすることのない“野菜の最後の姿”を見て、衝撃を受けたという。そして居ても立ってもいられず雲仙へと向かい、タネトを訪ねて奥津さんから直接話を聞き、売られている野菜をじっくりと見て、思い至った。「ああ、日常の中に万博があるじゃないか!」と。
EARTH MARTの出口には「Welcome to EARTH MART」とある。本物のEARTH MARTは地球であり、その世界にようこそという意味だ。僕はEARTH MARTで学んだこと、気づいたこと、知ったことを、日常生活においても大事な視座として持ち続けてくれたらなあと願っていた。だから岡本さんが授賞式で話してくれたそのエピソードに、「ああ、それこそが僕が万博でいちばんやりたかったことだ!」とあらためて気づかせてもらった。万博自体は閉幕したけれど、皆さんが持ち帰った種のようなものがどんなふうに日常に芽吹いていくのか、考えるだに嬉しくなる。
万博のテーマ事業プロデューサーを依頼されてからの5年間、「食べるって何だろう?」とずっと考えてきた。そして、「食べることは、地球という食卓を囲んで一緒に生きること」という結論に達した。
戦争をしたり、傷つけ合ったり、憎しみ合ったり。そんなこともともに食卓を囲んで食事さえすれば、一気に仲良くなって、なくなるのではないか。特に食事というのは一番お国柄が出るものだから、相手の国の歴史を知らずとも言語を習得せずとも、一発でわかりあえる。食卓ほど、互いを理解するのに優れた装置はないと思う。



