食&酒

2026.01.11 15:00

日常のなかの万博:小山薫堂 東京blank物語

努力は夢中に勝てない

「食」に関わるようになって30年以上。そのきっかけは、放送作家として企画・構成を担当した『料理の鉄人』だった。以来、グルメ雑誌での連載やレストラン監修をはじめ、自らもバー、レストラン、料亭などのオーナーとして経営に携わってきたわけだが、振り返ると飲食業界もずいぶんと変わったなと思うことがいくつかある。一つ目は「情報の拡散の仕方」。二つ目は「飲食店の二極化(高価格帯と低価格帯)」。三つ目は、なかなか書きにくい話だが、「働き方改革による弊害」だ。

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ひと昔前であれば、親方から「技は盗め」と言われ、朝一番に来て、夜は最後に帰るという働き方が一般的だった。いまはそういう時代ではない。長時間労働は是正され、残業手当が支給される。ブラックといわれた世界からの脱却。至極健全だ。でも、ある意味では、志高き人の芽を摘んでいる部分もあるのではないだろうか。均一化された結果、ずば抜けた料理人というのが生まれにくいのではないか。

孔子の論語「知之者不如好之者、好之者不如樂之者(天才は努力する者に勝てず、努力する者は楽しむ者に勝てない)」の後半部分は、「努力は夢中に勝てない」と訳される。

この言葉にこそ、飲食のみならず、すべての業界におけるイノベーションの秘訣があると僕は思う。“夢中な人”の働き方をむやみやたらと改革した結果、その“夢中”が未来に生むであろう素晴らしき実りがもたらされないことは、やはり危惧すべきではないだろうか。

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今月の一皿

食といのちを考える「EARTH MART」パビリオンで特に目を引いた巨大な目玉焼きのオブジェをイメージして。

Blank

都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。


小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務めた。

写真=金 洋秀

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