実家の資産喪失や事業の失敗を経験し、母親からの借金を元手に再起を果たす
トーラスは、人生の浮き沈みへの対処法を身をもって学んできた。スペインのバルセロナで育った彼の一族は、製紙工場や新聞事業で財を成し、当時はかなり裕福だったという。「しかし、1970年代の不況でその財産をすべて失った」とトーラスは語る。1982年、18歳だったトーラスは、新天地を求めて家族とともにブラジルのサンパウロへ移住し、マッケンジー長老派大学で学んだ。父親は、旧知の人脈を生かし、苛性ソーダなどの製紙分野で使われる化学薬品の取引を始め、主に中国のメーカーに販売していた。
だが4年後、父親は筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断され、1988年に亡くなった。当時22歳だったトーラスは、事業を引き継ぎ新規顧客の開拓にも奔走したが、その過程で「事業の運営には途方もない労力が必要だ」という現実を学んだという。
しかし、努力だけでは乗り越えられない局面もあった。1989年の天安門事件後、中国経済が一時的に失速すると、当時最大の市場だった中国からの需要が急減した。25歳になっていたトーラスは、事業を一人で維持することができず、事業を閉じてヒューストンのホランド・ケミカルに就職した。そこで年収3万ドル(約465万円。現在の価値で約7万5000ドル[約1200万円])の報酬を得た彼が、頭角を現すまでに時間はかからなかった。「ある日、車に『会社一のトレーダーにふさわしくない車だ』というメモを貼られたんだ」とトーラスは笑う。当時乗っていたのはヒュンダイだった。
勤務先での待遇に不満を持ち、祖母の遺産を担保にして創業資金を調達
彼は、後に世界最大の化学品商社となるブレンタークに買収されたホランド・ケミカルで7年間勤めたが、ボーナスを巡って上司と衝突し、最終的に退社した(彼自身は、報酬面で冷遇された理由の一つが、オランダ人ではなかったことではないかと疑っている)。その後、トーラスは他の3人のトレーダーと資金をかき集め、Tricon Energyを立ち上げた。スペインに住む母親は出資を拒んだため、祖母が亡くなった後に相続することになるバルセロナのアパートの持ち分を担保に、8万7000ドル(約1300万円。現在の価値で約18万5000ドル[約2900万円])を貸してくれるよう母親を説得した。
市場の逆を行く戦略で事業を拡大、経営方針の相違などから共同創業者と決別
トーラスは、市場の逆を行く判断で成功を積み重ねていった。1990年代後半のアジア通貨危機の後、彼は韓国のロッテやハンファといった新たな化学品供給元を見いだした。Tricon Energyはまずソウルに拠点を開設し、その後、上海、イスタンブールへと展開した。2007年にはプラスチックの販売に参入。2015年、原油価格が急落すると、燃料取引にも乗り出した。すでに大量のプラスチックや化学品を世界中で動かしていたトーラスは、2016年に船舶のチャーターや物流管理にも進出し、のちにこの事業を「ライトハウス・チャータリング」として分社化し、現在も出資を続けている。
事業を拡大していく過程で、トーラスは3人の共同創業者と袂を分かった。そのうちの1人のジェフリー・マクニアは、終わりのないディール交渉に疲れ果て、2008年に保有していた15%の持ち分を現金化して離脱。その後、Tricon Energy出身のトレーダー数人と新会社を立ち上げたが、この事業は長続きしなかった。現在はホンジュラスで白内障クリニックの建設に力を注いでいる。
マクニアはトーラスについて、「人当たりがよく、自然と好かれるという突出した能力があった」と振り返る。加えて、粘り強い交渉力と並外れた勤勉さも兼ね備えていたという。ただし彼は、中南米各地で小規模な化学品商社を次々に買収していくという当初の構想を描いたのは、もう1人の主要創業者であるジェリー・アルファヤだったとも指摘する。
テクニカル分析に頼る共同創業者を持ち分を買い取り、自らが望む視点で会社を築く
トーラスは、アルファヤが「エリオット波動理論」と呼ばれるテクニカル分析に基づいて市場予測を行い、短期的な値動きを狙う取引に傾きすぎていると考えていた。こうした取引姿勢が事業に不要なリスクをもたらすと判断し、2000年にアルファヤの持ち分を買い取ったという。なお、アルファヤはコメント要請に応じなかった。これについてマクニアは、「彼は自分が築きたかったものを築いた」とトーラスを評し、「その一部になれたことを誇りに思っている」と語る。
現在、会社の90%超を保有するトーラスは、2016年に日常業務を任せるため外部からCEOを招き、自身はトレーディングに専念しようとした。しかし新任CEOから「指示が細かすぎる」と告げられ、最終的には自らCEO職に復帰した。「1年たって、私はそれほど悪いCEOではなかったと気づいた」とトーラスは語る。


