Forbesが毎年発表する『全米非公開企業ランキング(Forbes America's Top Private Companies)」は、株式市場に上場せずとも巨大な経済圏を築く、いわば“隠れた巨人”を可視化するリストだ。選出されるのは、年間売上高が20億ドル(約3100億円。1ドル=155円換算)を超える米国拠点の非公開企業に限られる。ここには、穀物メジャーCargill(カーギル)、「M&M's」や「スニッカーズ」で有名な食品大手Mars(マース)といった、世界的な知名度と影響力を誇る企業が名を連ねる。
フォーブス『全米非公開企業ランキング』2025年版に初登場で35位に食い込んだのが、テキサス州ヒューストンに本社を置くTricon Energy(トライコン・エナジー)だ。同社は、自社工場を持たずに化学品やプラスチック・肥料原料などの物流・販売を一手に担う、売上高130億ドル(約2兆円)の巨大商社である。創業者兼CEOのイグナシオ・トーラス(61)は、ミシュランの星付きレストランのオーナー、神経多様性のある選手を対象とした世界規模のサッカー大会の主催者という別の顔も持つ。化学品市況は「過去20年で最悪」とされるが、彼は自社が「過去最高の年」を迎えていると明かす。
化学業界が苦境にある中で、独自のビジネスモデルにより過去最高の年を迎える
イグナシオ・トーラスは、午後の昼寝を日課としている。ヒューストンの高層ビルにある本社で働く日は、オフィスの隅に置かれた白いレザーのイームズ製リクライニングチェアで目を閉じる。年商130億ドル(約2兆円。1ドル=155円換算)のTricon Energyを率いる彼は、「短時間の昼寝で頭がすっきりする」と語る。
この習慣が、多忙な日々を送る彼を支えている。トーラスは毎朝午前4時に起床し、ヒューストンにある2つのスペイン料理店を見て回る。週に少なくとも数回は、妻とともに教会のミサにも出席する。自宅裏のピッチでは、隔週でサッカーの練習試合を主催している。
「化学品のウォルマート」として、所有権を引き受けて世界中で商品を動かす
もっとも、彼の時間の多くは、2024年の売上高が130億ドル(約2兆円)に達したTricon Energyに注がれている。世界で毎年約2400万トンの化学品を取引する同社は、2025年のフォーブス『全米非公開企業ランキング(Forbes America's Top Private Companies)』に初登場で35位に入った。Tricon Energyは、プラスチックシートに使われるポリプロピレンや、ペットボトルやポリエステル繊維の主要原料となるキシレンやメタノールなど、コモディティの取引を手がけている。
同社の最大の主力商品は、ペレットと呼ばれるポリエチレン樹脂のプラスチック粒だ。Tricon Energyは、エクソンモービルやライオンデルバセル、シェル、ダウ・ケミカルといった世界有数の化学メーカーからペレットを仕入れ、玩具やボトルキャップ、自動車部品などに成形するメーカーに販売している。ヘッジファンドや帳簿上の取引を行うトレーダーとは異なり、Tricon Energyは実際に商品を引き取り、保管し、世界各地に輸送する。
「私の会社は、化学品のウォルマートなんだ」とトーラスは語る。Tricon Energyは、取引において「100%の所有権を引き受ける」という。「5000トンを買い、ヒューストンの倉庫に運び、アルジェリアに300トン、ナイジェリアに500トンを売る」と彼は説明した。
供給過剰と株価低迷が続く市場だが、取扱量の増加で企業価値を向上
しかし、多くのグローバル企業と同様に、Tricon Energyもトランプ政権の関税戦争に巻き込まれている。深刻なのが、パンデミック後の反動だ。新型コロナ禍では化学品の需要が急拡大し、価格も高騰した。これを受けて、超低金利を背景に、世界各地で化学プラントへの巨額投資が相次いだ。シェルは2022年にペンシルベニア州で稼働した巨大プラントに140億ドル(約2.2兆円)を投じ、中国でもここ数年の間に複数の大型化学プロジェクトが完成している。その中には、エクソンモービルが広東省恵州に建設した100億ドル(約1.6兆円)規模の複合施設も含まれる。
その後は供給過剰に陥り、さまざまな影響が広がった。昨年7月にはダウ・ケミカルが配当を50%削減。ライオンデルバセルは前四半期に欧州の化学資産で10億ドル(約1550億円)の減損処理を行った。韓国では11月、ロッテと現代がポリエチレン樹脂の生産を統合し、余剰工場を停止すると発表した。シェルも新設した巨大プラントの一部売却を検討している。こうした中、ダウ・ケミカル、ライオンデルバセル、ウェストレイクといった大手メーカーの株価はいずれも2025年の年初から約40%下落した。「非常に厳しい市場環境だ。化学業界にとって過去20年で最悪の状況だ」とトーラスは語る。
それでも、取扱量と市場シェアに関しては、2025年はTricon Energy史上最高の年になる見通しだ。2022年のピーク時ほどの利益にはならないものの、トーラスによれば、同社の出荷量は前年から20%増加しており、売上高もそれに応じて伸びる見込みだ。フォーブスは、Tricon Energyの企業価値を50億ドル(約7750億円)超と試算しており、同社の90%を保有するトーラスはビリオネアとなっている。
もっとも本人は、「会社の評価額を算定したことはないし、特に今はしたくもない」と語る。「そんなことよりも今は、不況を乗り切ることで手が一杯だ。サイクルが反転する日に備えている。それは必ず来る」とトーラスは続けた。



