食&酒

2026.01.11 14:15

史上最速で一つ星獲得 「マージ」柴田秀之シェフのビジネス脳

「マージ」オーナーシェフの柴田秀之氏

経験値の高いスタッフを揃え、これだけの店をオープンさせるのは大変であったろうと尋ねると、いかにも経営者らしい言葉が返ってきた。

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「10年働いて3000万円貯めるよりも、3000万円投資される価値のある人間になることを私は選んだんですね。時間は命と同様に一番大切なものですから。だからマージにはビジネスパートナーがたくさんいます。投資されるために必要な条件の一つがそうした伴走者たちなのです」

その伴走者のなかでも最も大切なのが生産者だ。レストランにとって素材は命。だからこそ、本当にいいものを仕入れるために全国を回り、これぞという生産者とは、お互いがウィンウィンの関係になれるような仕組みを必死で考えて実行している。

例えば愛媛の果樹園では、木を1本買いし、年初に1本分の果樹の売上を先に支払う。豊作でも、台風などで実らなくても、対価は同じ。そうすることで農家は安心して生産に励むことができる。もし、1個も実がならなかったら──「自分がその事実を発信することで応援を手に入れることができます。そしてクラウドファンディングなどを利用すれば、応援をキャッシュに変えることも不可能ではないです」という。

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こうしたアイデアは無限にある。茨城の養鶏場「ごきげんファーム」の卵に惚れ込んで使っているが、養鶏場では卵を産みにくくなった老鶏の処理の問題で悩んでいた。そこで早速老鶏を定期的に仕入れ、ブイヨンを引くのに利用し、今ではOEMで濃縮ブイヨンを作って販売するにいたり、サステナブルな関係を築いている。

また、凄腕のハンター貝塚徳之氏が撃つエゾジカも柴田氏のスペシャリテの一つだが、ハンターの仕事は収入が少なく、憧れの対象とならないため、年々成り手が減少している。何とかその状況を改善したいと、獲れた鹿を熟成させて特別な食材として供することを考えた。

熟成する様子を定期的に写真に撮り、柴田氏がフェイスブックにアップする。ゲストは自分が手塩に掛けているかのごとく、熟成鹿が食べられる日を楽しみに待ち、結果、付加価値がつき、もともと1頭2万円だったところ約4万円を貝塚氏に支払うことができるようになる。このように極上の素材を仕入れるために、その生産者を守り、応援することにもなる仕組作りを日々考えているのだ。

「ほかにも、レストランで売れる商材は、料理、ワイン、サービスだけではないと思っています。例えば使用している『玄承社』のナイフ。刀鍛冶が一つずつ手作りにする素晴らしい切れ味のものですが、お客様が興味を持てば販売もします」

柄の部分は燕三条の「すわおメッキ」で取りつけるのだが、純銀だと2年ほどで錆がでるらしい。鉛を配合することを薦められたが、柴田氏は敢えて錆びる銀100%の手法を選んだ。なぜなら、そうすることで、必ず2年に1回「すわおメッキ」にメンテナンスの仕事が入るからだ。販売する仕組みもユニークだが、その後の仕事づくりまで考えるというのはなかなかできることではない。

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文=小松宏子 編集=鈴木奈央

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