カルチャー

2026.01.14 14:15

村上春樹イベントNYマンハッタンで。米人ファン拍手万雷、『海辺のカフカ』朗読も

(c)Crystal Li

共演者たちによる高質のパフォーマンス

こうした場での経験豊富なケルツ氏は、村上氏の受賞時のスピーチの通訳、MC的な役割をこなす一方、よく通る声で村上作品を英語で読み上げる。その傍らにいた柴田氏も朗々と読んでいくのだが、この様子を客席から見たぼくはひとつの変化に気づいた。

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柴田氏の朗読はこれまでも、日本での文芸イベントなどを通じ観てきた。20年ほど前にはぼく自身もご一緒し、渋谷のタワーレコードにおけるイベントで複数回、洋楽の歌詞を日本語で互いが朗読する機会にも恵まれた。

その記憶をたどって、今回久しぶりにふれた柴田氏の朗読だったが、以前と比べ格段にパフォーマンスのレベルが上がっているように思えた。柴田氏の、声の通りの良さは昔からだが、そこへ抑揚、身振り手振りのアクション、さらには、自信のようなものが佇まいから感じ取られた(おそらくご本人は意識していないだろう)。

柴田氏やほかの出演者たちの高レベルのパフォーマンスに支えられたのもあって、村上氏が成し遂げた功績を祝うセレモニーが、一般的な文芸イヴェントを超えるものと印象づけるなか、村上氏がその昔、オーナーとしてジャズ・バーを営んでいた時代を書き綴るエッセイが朗読された。

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カウンターの向こうでバーをきりもりするオーナー、店内にはピアノが置かれ、心地よいジャズの音色が流れる。そのころの様子を描く文章の朗読と実力派ミュージシャンによる生演奏、さらにはバー・カウンターやウィスキーのボトルの舞台セットが加わって、50年前の光景がここニューヨークで鮮やかに再現されていた。

そして村上春樹の半生というドラマは、演目の最後に作家本人が再びステージに現れ、柴田氏に代わり自作『海辺のカフカ』を朗読することでクライマックスを迎える。数ブロック先のブロードウェイの劇場群に勝るとも劣らぬ、シアトリカルな時空間を分かち合えることに胸をときめかせ、感謝の意を伝えたい観客は、村上氏と共演者たちに万雷の拍手を贈るのであった。

(c)Crystal Li
(c)Crystal Li


新元良一◎1959年神戸生まれ。作家。1984年にNYCへ移住、22年間暮らした後に帰国し、2006年、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)の大学教員に着任。2016年に再び活動拠点をNYCへと移した。主な著作に『あの空を探して』(文藝春秋)。ブルックリン在住。インスタグラム:riyoniimoto.tracks

文=新元良一 編集=石井節子 写真提供=The Japan Society

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