キャリア・教育

2026.01.07 11:45

人生に「商売力」をもたらす「子どもに必要な教育」

Intelligent Horizons / Adobe Stock

教育現場でも同じ手応えがある。小学校から大学まで授業を行い、先日は中学3年生50名とサンリオとオリエンタルランドの決算書を比較した。アンケートの理解度は100%。これまでに、学生は数百人、中小企業の経営者は五百名、大企業の従業員は一万人以上に決算書の読み方を伝えてきた。多くは「数字は苦手だ」と言うが、BSとPLのつながりが腑に落ちると表情は明るくなり、会話は前へ進む。決算書は社会を映す鏡であり、読み解き方がわかれば抽象的な不安は具体的な希望に変わる。

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ここで福澤諭吉である。福澤が重んじたのは「誰が読んでも同じ結論になる帳簿」である。これがあれば事実で話せる、だから決められる。帳簿は約束の証拠であり、信用が蓄積する。信用があれば人も資金も集まり、公正な分配ができる。家計・商店・工場の一冊一冊が整えば、国全体の無駄が減り、富が増える。『帳合之法』の普及は、声の大きさではなく契約と計算が通る社会への転換装置だった。私たちが今取り戻すべきは、難解さを競う学問ではなく、暮らしと現場に効く実学としての会計である。

もし会計が義務教育に入っていたらどうなるか。進路の選択幅は広がる。大企業だけでなく、伸び盛りの中小企業や起業・家業承継も現実的な道になる。会計は“持続する力”を与える。景気や職場が変わっても、BS・PL・CFという地図で立て直せるからだ。企業の内側では会計という共通言語で全体最適の議論が可能になり、部署間の摩擦は減る。公共部門でも「どこから、いくらを、何に使うか」が生活の常識となれば、参加は高まり、無駄は減り、説明は明晰になる。

数字は人を裁くためではなく、明日の行き方をそっと照らす道具だ。小さな現場の変化の積み重ねが、しなやかで、しぶとい国を育てる。私はその未来を、今日の一枚の決算から始めたい。そこに込めたいのは、日本に“商売力”を育てることだ。商売力とは、つくった価値をていねいに伝えて値段にする力、お金を切らさず働く人の安心を守る力、迷ったときに数字で落ち着いて話し合える力。家庭では「わが家の一枚決算」を囲み、会社では週に一度、数字を見ながらいまできる小さな修正を決める。学校では子どもたちが決算書を読み、役所では収入と支出を一枚で示す。場所は違っても、同じ地図を見られれば、足取りはそろう。数字がわかれば、できることが増える。できることが増えれば、挑戦はこわくない。日本に“商売力”を。一人ひとりの暮らしと仕事の手ざわりから、その力をやさしく育てていきたい。

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