「自分の給料の額の根拠を知っている人はいますか?」
女性販売員が多い会社でそう聞くと、ほとんどの人が手を挙げなかった。それ以前に「売上げ」と「利益」の違いを知らない人も散見された━━。この会社に限らず、これはどこの会社でも見受けられる光景だという。
松本めぐみさんは、中小企業経営で苦労した自らの体験から「風船会計」なる数字の読み解きを編み出して、それを企業で教えている。彼女は自動車部品関連の工場に嫁ぎ、赤字、人事トラブル、顧客の要望、在庫管理と、それに加えて自身の3人の子育てに悪戦苦闘しながら、次から次に降ってわいてくるタスクに「こんなモグラ叩きに時間を費やすのではなく、もっとワクワクした仕事にできないか」と思っていた。そこで、勉強して編み出したのが「風船会計」という、会計を風船と豚の貯金箱に例えて学ぶ方法だ。
これが話題となり、大企業から中小零細企業に至るまで各方面に呼ばれては研修を行っている。そして、冒頭で紹介したように、自分の給料の根拠を知らなかった人たちが、仕事がもたらした貢献の結果である数字の意味に感銘を受けて、涙するまでになったという。
会計とは、「対立を合意に変えて、みんなで未来に進むために見る地図」と松本さんは言う。将来の不安は「漠然とした見えない幽霊」みたいなものだが、数字にして地図のように広げると、具体的な意志が見えて、希望になる。松本さんが書いたコラムが財務省「ファイナンス」(12月号)の巻頭言として掲載された。未来の日本に必要なことが温かい眼差しで書かれてあるので、ぜひ以下のエッセイをご覧いただきたい。
皆が決算書を読める国の未来
私は高専で電気電子工学を学び、半導体装置メーカーのエンジニアとして働いた。当時は売上と利益の違いすら意識できていなかった。現場は性能や精度の話が中心で、商売の地図は手元になかった。のちにスイスでMBAに挑み、会計を基礎から学び直した。
現在は自動車部品製造会社・松本興産の取締役として十年以上、経営に携わっている。悩みは常に「人」と「金」である。かつては部署間の主張が衝突し、上の意図が現場に届かず、人事トラブルの芽もあった。そこで数字を誰にも伝わる形に翻訳し、決算書を図で読む風船会計メソッドを考案した。いまは皆が経営者マインドを持ち、毎週、売上・粗利・在庫・固定費・回収を自分たちで確認し、静かに方向を修正するようになった。数字が共通語になると、対立は合意に、指示待ちは自律に変わる。



