Forbes BrandVoice!! とは BrandVoiceは、企業や団体のコンテンツマーケティングを行うForbes JAPANの企画広告です。

2026.01.30 16:00

激化する量子コンピューティングのグローバル競争に日本の勝算はあるか?――鍵は越境・挑戦する人材の育成

量子力学の確立からおよそ1世紀。今、量子コンピュータの研究開発と社会実装をめぐり世界各国がしのぎを削っている。それは日本も例外ではない。政府は「量子未来産業創出戦略」を打ち出し、量子技術の実用化・産業化に向けてスタートアップや新事業の創出支援、人材の育成などを進めている。

この喫緊のテーマを掘り下げるべく、Forbes JAPANでは経済産業省所管の情報処理推進機構(IPA)の協力のもと、トークセッション「量子コンピューティング人材の未来と可能性」を実施。人材育成、研究開発、ビジネス実装の最前線に立つ3人の専門家が、量子技術が向かう方向性を俯瞰しつつ、日本が産業応用で世界をリードするための環境整備と人材育成について議論を交わした。進行はForbes JAPAN Web編集長の谷本有香が務めた。


■登壇者

田中 宗(たなか・しゅう) 未踏ターゲット事業 量子コンピューティング技術分野 プロジェクトマネージャー(PM) 慶應義塾大学 サステナブル量子AI研究センター センター長
田中 宗(たなか・しゅう) 未踏ターゲット事業 量子コンピューティング技術分野 プロジェクトマネージャー(PM)、慶應義塾大学 サステナブル量子AI研究センター センター長

量子最適化分野の第一人者。未踏ターゲット事業PM、大学における教育・研究とスタートアップとを両立し、量子人材育成と産学連携に注力している。

益 一哉(ます・かずや) 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(AIST) センター長 量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT) センター長
益 一哉(ます・かずや) 国立研究開発法人 産業技術総合研究所(AIST) 量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)センター長

電子デバイス、ナノテクノロジー分野の世界的研究者。量子技術の基礎研究と産業応用を統括し、スタートアップ支援や国際連携によって量子エコシステムの構築を進める。 

寺部 雅能(てらべ・まさよし) デロイト トーマツ グループ 量子技術統括
寺部 雅能(てらべ・まさよし) デロイト トーマツ グループ 量子技術統括

量子コンピューティング領域における産業応用を牽引。研究開発と産業支援を横断し、企業の量子技術導入の戦略立案からエコシステム構築まで幅広く指揮する。

谷本有香(たにもと・ゆか) Forbes JAPAN Web編集長
谷本 有香(たにもと・ゆか) Forbes JAPAN Web編集長

求められるのは量子技術を武器に新しい価値を生み出せる人材

量子技術の社会実装を進めるには、量子技術そのものの進展に加え、産業への応用が欠かせない。産業応用を促進させる鍵となるのが“人”だ。技術理解だけでなく、量子技術を武器に、新しい価値を生み出す人材が必須になる。

現在、日本では、そういった人材を増やすための人材育成施策が各所で進められている。IPAが実施する「未踏事業」は、IT分野における突出した人材の発掘・育成を行うプログラムとして、四半世紀で2,300名以上の修了生を輩出してきた歴史ある国家プロジェクトだ。目的や対象が異なる複数の事業があり、なかでも「未踏ターゲット事業」では、量子コンピューティングをターゲット分野に定め、人材発掘・育成を行っている。

未踏ターゲット事業では、第一人者の伴走支援やプロジェクト推進費用支援に加え、量子コンピューティングに関わるプロジェクト開発に必要な環境を提供している。2025年には、産業技術総合研究所(以下、AIST)の「量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(以下、G-QuAT)」(茨城県つくば市)と連携協定を締結。26年には、同センターが擁する開発環境の利用も可能になる予定だ。

世界最高レベルの量子コンピュータを有する「G-QuAT」との連携が、量子人材育成を加速させ、日本の量子技術の未来を拓くことはできるのか。G-QuATを舞台にセッションは行われた。

超伝導量子コンピュータについてモックで説明する国立研究開発法人 産業技術総合研究所(AIST) 量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT) センター長の益 一哉。聞き手はForbes JAPAN Web 編集長の谷本有香。
超伝導量子コンピュータについてモックで説明するG-QuATセンター長の益 一哉。聞き手はForbes JAPAN Web 編集長の谷本有香。

未踏×G-QuATで、量子コンピューティングを“使いこなす人材”を育てる

谷本有香(以下、谷本):未踏ターゲット事業は無限の可能性を秘めた、挑戦者のための入り口です。一方で「量子」と聞くと、高度な物理学知識が必要で、理工系の深いバックグラウンドがないと難しい印象もあります。実際はどうなのでしょうか。

田中 宗(以下、田中):未踏ターゲット事業は文系も含め、多様な人に門戸を開いています。確かに量子コンピュータのハードウェア開発には物理の専門性が必要ですが、私たちが注力するのは「どう使うか」というソフトウェア開発です。社会科学や人文科学など、一見遠い分野の人が「自分の専門に量子技術を応用したらどうなるか」と発想することが重要です。

過去には建築デザインを専門とする学生が採択された例がありますが、これは建築における配置の最適化が、実は量子と相性が良いことを示しています。このように好きなことや得意領域の知識をもち、そこに量子コンピューティングを掛け合わせたいというアイデアと熱意をもつ人こそ、私たちが求めている人材です。

谷本:「量子×建築」や「量子×社会科学」など、異なる分野の掛け合わせがイノベーションの鍵になるのですね。そうした人材が育つ環境として、「G-QuAT」との連携があります。この施設について教えてください。

益 一哉(以下、益): G-QuAT(Global Research and Development Center for Business by Quantum-AI technology)は、AISTのなかの新しい研究センターとして2023年7月に発足しました。ミッションは、高性能な量子コンピュータをつくるだけではなく、「量子技術によるグローバルビジネスエコシステムの構築」をすることです。

今の量子コンピュータは、産業利用という意味では“よちよち歩き”の段階。それを実用レベルへ引き上げ、ビジネスとして成立させ、社会課題の解決につなげていく。そのために、量子コンピュータの開発だけでなく、スーパーコンピュータと組み合わせた計算環境、次世代機をつくるための部品評価までを加えた、ハードからソフト、ビジネスまでを包含するフルスタックの拠点として機能させています。

実際にコンピュータの共同開発を検討する産業界や、アカデミアの方々など、多方面から見学に来られています。

2023年7月に発足した研究センター「G-QuAT(Global Research and Development Center for Business by Quantum-AI Technology)」に導入予定の光量子コンピュータについてモックで説明する益。写真右は、未踏ターゲット事業PMの田中宗、その隣は、デロイトトーマツ グループ 量子技術統括の寺部雅能。
2023年7月に発足した研究センターG-QuATに導入予定の光量子コンピュータについてモックで説明する益。写真右は、未踏ターゲット事業PMの田中宗、その隣は、デロイトトーマツ グループ 量子技術統括の寺部雅能。
G-QuATでは、2020基のNVIDIA H100 Tensor コア GPUを備えたGPUスーパーコンピュータを含む、量子・古典ハイブリッド計算基盤「ABCI-Q」を構築している。
G-QuATでは、2020基のNVIDIA H100 Tensor コア GPUを備えたGPUスーパーコンピュータを含む、量子・古典融合計算基盤「ABCI-Q」を構築している。

谷本:まさに日本の量子技術の「ハブ」となる場所ですね。

:そう言ってもらえるとありがたいですね。ただ、ハブというのは単に人が集まる場所ではありません。多様な知識や技術をもつ人が集まり、切磋琢磨して何かが生まれ、それがまた外の世界へ出ていく。

この「人の循環」と「知識の循環」こそがハブであり、結果として産業化につながると考えています。G-QuATと未踏ターゲット事業との連携は、計算機環境を使って新たな社会課題の解決やビジネスの創出へ踏み出す領域において、こうした循環を生み出すための重要な取り組みのひとつです。

G-QuATの研究センター内にあるフリースペース。国内外のさまざまな量子関連のプレイヤーが集い、オープンイノベーションが図られている。
G-QuATの研究センター内にあるフリースペース。国内外のさまざまな量子関連のプレイヤーが集い、オープンイノベーションが図られている。

世界中で量子コンピューティングへの投資が急増

谷本:量子コンピュータによって具体的に何が変わるのか、理解している人はまだ少ないように感じます。寺部さん、ビジネスの視点からどう説明すればよいでしょうか。

寺部雅能(以下、寺部):まず、インパクトの大きさから言うと、「120兆円」。これは、2040年に量子コンピューティングが生み出すとされる市場価値の試算です。現在のAIに匹敵する経済インパクトが期待される背景には、計算の仕組みの違いがあります。

従来のコンピュータは0と1のどちらか一方のみを取る「ビット」が基本単位です。一方、量子コンピュータの基本単位である「量子ビット」は0と1の状態を重ね合わせた状態で扱える。この性質をうまく利用すると、組み合わせが爆発的に増える問題に対して従来とはまったく異なるアプローチが可能になります。

例えば30量子ビットで約10億通り、60量子ビットではその約10億倍、つまり約10億×10億通りという、天文学的な組み合わせを一度に扱えるようにふるまえる。半導体の性能向上が「2年で2倍」というムーアの法則に従ってきたのに対し、量子コンピューティングは理論的には「数年で何兆倍」という桁違いの伸びしろをもっているのです。

これはAIの処理能力向上や省電力化、新材料探索、創薬、金融など多くの分野で活用が期待されており、まさに「計算機の革命」と言える存在です。

谷本:なるほど。まさにその革命に向かって研究が進んでいると思いますが、世界のトレンドはどうなっていますか。

寺部:今はまだ実用化の前段階ですが、“宝探し競争”が激化しています。ビッグテックと呼ばれる巨大IT企業がハードウェア開発に参入しているほか、各国政府や民間の投資が急増しています。

米国などでは量子スタートアップが次々に立ち上がり、時価総額10億ドル超のユニコーン企業も誕生しています。ハードウェア企業だけでなく、ソフトウェア、そしてユースケース開発を担う企業も台頭し、産業構造が変わり始めている。日本もここ数年で政府主導の投資が伸びています。

フルスタックな開発環境から、未来を変えるアイデアが生まれる

谷本:日本がこのグローバル競争のなかで存在感を示し、気を吐いていくためには何が必要でしょうか。

:日本の産業界はこれまで多くの技術分野でキャッチアップ型だと思われがちでしたが、量子分野に関しては「リードしているグループのひとつにいる」と言えます。

量子コンピュータ単体にとどまらず、GPUベースのスーパーコンピュータと接続した大規模計算環境「ABCI-Q」を整備し、ハードウェアからソフトウェアまでを一貫してフルスタックで提供できる研究開発拠点は、現時点では世界でもG-QuATくらいしかありません。このユニークな環境こそが国際競争力の源泉で、世界中の研究者や企業が「使いたい」と集まってくるポテンシャルがあるのです。

谷本:それは非常に力強いメッセージです。世界最先端の環境を使いこなすことが鍵になるのですね。

田中:その通りです。そこで課題でありチャンスにもなるのがソフトウェアです。量子コンピューティングは魔法の杖ではなく、使いこなすには工夫が要る。「そのままでは難しいが、工夫すれば化ける」のが現状の量子コンピューティングです。

だからこそ、産業課題と量子コンピューティングを結びつけるソフトウェアを開発する人材には、大きな活躍の場が広がっているのです。半導体製造工場の工程最適化や、物流・配送ルートの最適化など、現場に根ざした応用事例も日本から生まれ始めています。

谷本:量子コンピューティングの活用イメージを、未踏ターゲット事業の応募者はどう捉えるとよいでしょうか。

田中:まずは「自分が得意なもの、好きな分野で何を最適化したいか」と考えることが第一歩になります。私たちの身の回りには、最適化すべき課題が山ほどあります。さきほど述べた建築デザインもそうですし、最適な栄養バランスを考える献立づくり、ゲーム開発なども対象になりました。

未踏ターゲット事業では、量子コンピューティングの原理を使ったゲームをつくるプロジェクトや、学習用Webサイトをつくるプロジェクトも採択されています。まずは「触ってみる」「遊んでみる」感覚で入ってほしいですね。

多様な人々が集まりイノベーションを起こす場、G-QuAT

谷本:量子はこれから多くのユースケースが生まれてくる分野だと思います。日本人はユースケースをつくるのが得意だと感じる一方で、研究とビジネスの間に壁があり、実装に至るエコシステムがうまくワークしていない印象もあります。益さんは研究者の立場から、どのようにお考えですか。

:まず大前提として、日本で足りないのは“人材が動く” ことではないかと思っています。私は2つの大学を経験して半導体を専門としてきましたが、今は量子分野に移り、自分自身が大きく成長していると感じます。それは環境が変わったからです。

寺部さんも研究者からCVCを経て、現在はコンサルティングと研究開発を横断されています。こうした個々の「越境」が当たり前になり、みんなで“ワチャワチャ”できる状態をつくることが大事で、その出発点が「マインドセットを変える」ことだと思います。

そうすれば、今、谷本さんがおっしゃったような課題は自然と解決できる。研究者、スタートアップ、大企業、そしてVC/CVCまでが立場を超えて混ざり合うことで、イノベーションが生まれてくる。G-QuATがそのモデルケースになれば面白いですね。

谷本:複数の所属や領域、立場を越境して活躍する個人がどんどん入ってくることを期待されているのですね。

:はい。そのときに国境も超えて交わることで、人材が動き、知が動き、お金も動くのでしょう。

寺部:私も同感です。米国の強さは、技術そのものよりもむしろ「エコシステムの厚み」にあります。エグジットを経験した起業家が次の投資に回る循環ができている。日本もそこに追いつくため、未踏ターゲット事業で育った人材が海外で武者修行し、VCや研究者とつながって、グローバルな視点とネットワークをもち帰ってほしい。

量子は技術的なブレイクスルーひとつで世界の勢力図を変える力を秘めています。そのポテンシャルとエコシステムを接続できれば、日本にはものすごく大きなチャンスがあると思います。

多彩なアイデアと挑戦を待つ「未踏ターゲット事業」

谷本:お話を伺って、量子分野は一部の天才だけのものではなく、実はもっと開かれたワクワクする世界だと感じました。最後にメッセージをお願いします。

:25年は量子力学誕生から100年という節目の年です。G-QuATの開所式では「量子産業化元年」という言葉も出ました。科学の最先端と、新しい産業の胎動が同時に動いている。こんなにダイナミックで面白い時代に立ち会えることはそうそうありません。この「ワクワクする分野」に、ぜひプレイヤーとして参加してください。

寺部:私自身、10年以上この分野に取り組んでいますが、その原動力はずっと「ワクワク感」です。「量子コンピューティングを使えばこんなことができるかもしれない」「まだ誰も見たことのない景色が見られるかもしれない」。その好奇心こそが最大のエンジンです。遠い未来の技術だと思って尻込みせず、まずは飛び込んでみてください。そこには新しい風が吹いています。一緒に挑戦しましょう。

田中:量子コンピューティングは、これから先が長い、可能性に満ちた分野です。だからこそ、現在は別のことに熱中している人、別の専門性をもつ人にも「まずは試しに量子に触ってみようかな」くらいの気持ちで踏み出してほしい。未踏ターゲット事業はそんな方にぴったりです。コアな理論を完全に理解していなくても構いません。私たちPMが全力でサポートします。常識にとらわれない、新しいアイデアをもった皆さんの応募を待っています。審査する私たちも、提案書を見てワクワクしたいと思っています。

谷本:量子コンピューティングは、私たちが思っている以上に身近で、そして世界を劇的に変える可能性を秘めています。その変革の担い手は、この記事を読んでいる皆さん自身かもしれません。たくさんのご応募、お待ちしています。

<「量子コンピューティング人材の未来と可能性」はこちらから>


「2026年度未踏ターゲット事業(量子コンピューティング分野)」プロジェクト公募のご案内

現在、2026年度未踏ターゲット事業(量子コンピューティング技術を活用したソフトウェア開発分野)では、プロジェクトの提案を募集しています。詳細は未踏事業Webサイトからご確認ください。

promoted by 独立行政法人 情報処理推進機構 / text by Sei Igarashi / photographs by Takao Ota / edited by Akio Takashiro