筆者が「ガチ中華」の世界に分け入るようになって5年の月日が経ったが、昨年も驚くような出会いがあった。
前回のコラム「味坊集団の梁さんが茨城の農村につくった『美食とアート』の拠点を訪ねる」でも紹介したように、中国語圏のご当地グルメだけではない、想像もしていなかったディープな楽しみがいくつかあった。
その1つが、モンゴルやウイグルといった中国のシルクロード地域出身の少数民族の人たちが営むレストランで体験できる「ライブ演奏」だ。
内モンゴル料理店で聴く馬頭琴の演奏
筆者はここ数年、モンゴル国を何度か訪ねる機会があり、そこが昔から足を運んでいた中国の内モンゴル自治区とは別な世界であることを知った。
彼らは、同じ民族でありながら、国境をまたいで別々に暮らすディアスポラ(離散)の民であり、モンゴル国の人たちはロシア化したユーラシアの民として、内モンゴルの人たちは中国化した東アジアの民として、この100年を生きてきたと言っていい。
それゆえ、東京においても、モンゴル国の人と中国の内モンゴルの人が供する料理は少し異なっていることを「東京で味わえる『ディアスポラの民たち』のモンゴル料理店探訪記」というコラムで紹介した。
とはいえ、出身国と料理は違っても、共通しているのは、彼らの伝統的な民族楽器である馬頭琴(モリンホール)のライブ演奏を聴かせてくれる店があることだ。馬頭琴といえば、その由来を描いた童話『スーホの白い馬』の絵本で、ご存知の人もいるかもしれない。
東京の池袋に昨年3月にオープンした内モンゴル料理店「老綏元(ろうきえん)」では、毎晩7時頃から馬頭琴の演奏が行われている。
演奏しているのは、中国の内モンゴル自治区東部出身のナレントヤさんという馬頭琴奏者だ。筆者はひそかに彼女のファンになったのだが、実を言うと、彼女の出身地は筆者の祖父が戦前に赴任していた町で、若い頃に一度訪ねたこともあり、親しみを感じたせいでもある。
何度か店に通い、彼女の演奏を聴くうちに、馬頭琴の名曲をいくつか知るようになった。なかでもモンゴル民謡の「諾恩吉雅(ノンジャァー)」はお気に入りの1つで、果てしなく広がるモンゴル草原の上空を流れゆく雲のような、馬頭琴の伸びやかで抒情的な旋律に心が揺さぶられ、胸が熱くなる。
さらに、チンギスハーンの軍勢が草原を一斉に駆け抜けていくさまを連想させるような迫力ある名曲「万馬の轟」を聴くと、身体中がゾクゾクし、血が騒ぐのである。
同店は内モンゴル自治区の省都フフホトにある1988年創業の羊肉焼売のフランチャイズ店で、肚包肉(ドゥパオロウ)という羊の内臓を衣にした珍しい焼売が名物だ。



