シンカイクサウオが注目される理由
シンカイクサウオのような極限環境に生息する生物は一様に、生命の存在可能域における「限界」について教えてくれる。例えば研究者は長年、すべての脊椎動物にとっては水深8000m前後が明確な生存限界だと想定していた。これは主に、TMAOの濃度が、最終的に生命を維持するのに不可能なレベルに達すると考えられていたためだ。
しかしシンカイクサウオは、その限界値に到達している。すなわち、かつて生存不可能と考えられていた高圧下でも、脊椎動物が生命を維持し得ることを証明している。
この意味において、超深海帯の超高圧環境は、おそらく地球上で最も過酷なストレス下における、タンパク質や細胞膜の挙動を研究する天然の実験室として機能している。シンカイクサウオの適応は、すでに以下の分野に知見をもたらしている。
・構造生物学
・膜物理学
・圧力が引き起こす「タンパク質のアンフォールディング」の研究
高圧から体を保護する生化学的メカニズムを理解することで、将来的には、医薬品の安定性の向上、より変化に強い酵素、さらには、高圧に耐える生体材料の開発に役立つ可能性がある。
地球の超深海海溝域の大部分は、いまだに科学の手がほとんど届いていない。そのため、新たな深海探査は、毎回のように予想外の発見をもたらす。シンカイクサウオは、超深海帯を代表するシンボルの1つだ。
彼らの存在は、この惑星には今なお秘密が隠されていること、そして生命は、かつて不毛と思われた場所でさえ、必ず生き延びる道を見いだすことを示している。


