しかし、現時点では、この構想は経済合理性を欠く。「軌道上データセンターの成否を左右する最大の変数は、打ち上げコストだ」と宇宙アナリストのクリス・キルティは指摘する。宇宙でのデータセンター運用にかかるエネルギーコストが地上を下回るには、打ち上げ費用を1キログラム当たり200〜300ドル(約3万1千円~4万7千円)程度まで引き下げる必要があると、宇宙スタートアップ「スタークラウド(Starcloud)」のCEO、フィリップ・ジョンストンは語る。同社はエヌビディアの支援を受け、12月には宇宙空間でのAIモデル訓練に初めて成功した。現状、最も低コストとされるスペースXの「ファルコン・ヘビー」でさえ、打ち上げ費用は1キログラム当たり約1500ドル(約23万5千円)にとどまっている。
その実現に必要な技術は、確立されていない。スペースXは、ロケットの第一段ブースターを第二段から分離し、軌道に投入せずに回収・再利用することで、打ち上げコストを1キログラム当たり約5万ドル(約785万円)から数千ドルへと大幅に引き下げることに成功した。一方、第二段については、軌道投入後に完全な状態で地球へ帰還させる必要があり、再利用を実現した企業は存在しない。
軌道上データセンターの推進派は、近い将来にこの技術革新が実現すると主張する。AIの普及によって急増するデータセンター需要に対し、地上の電力網ではもはや十分に対応できず、宇宙への進出は急務であるというのが彼らの考えだ。国際エネルギー機関(IEA)は、今後5年間でデータセンターの世界全体の電力消費量が倍増し、AIの普及に伴う消費は年率30%で拡大すると予測している。一方、ウェブサイトのホスティングなど従来用途による消費増加は、年率9%にとどまる見通しだ。宇宙空間では、巨大なソーラーパネルを通じて太陽から無尽蔵のエネルギーを取り込み、AIチップに電力を供給することが可能になる。
スタークラウドは、軌道上に5ギガワット規模のデータセンターを構築するには、約6.5平方キロメートルの太陽電池パネルが必要になると試算している。ジョンストンによれば、打ち上げコストが1キログラム当たり約200ドルまで低下すれば、宇宙におけるデータセンター運営の総エネルギーコストは1キロワット時当たり1セント未満に抑えられ、現在の米国における5〜10セントと比べて大幅に安くなるという。
理論上は、宇宙にデータセンターを置くことには他にも利点がある。データセンターはエネルギーに加え、AIチップを冷却するための水や広大な用地を必要とする。さらに、建設にあたっては、地元住民からの反対や、数年単位に及ぶ許認可手続きが避けられない。「土地を掘り起こし、地域の電力網に接続し、地域社会や規制当局と調整を重ねる必要があるため、データセンターが稼働するまでに5〜8年を要することもある」と、バットは指摘する。これに対し、GPUを宇宙に打ち上げれば、ほぼ即座に稼働させることが可能だ。


