「SOIL」がもたらした風と土
民間の動きが活発になるなか、追い風となったのが2025年3月にオープンした宿泊施設 「SOIL Nagatoyumoto」 だ。運営するのは尾道市の瀬戸田に本社を置くStaple。老舗旅館「六角堂」の事業承継をきっかけに山口銀行から相談が寄せられ、木村の紹介で参画が決まった。
東京から長門に移住し、現地入りしたエリアマネージャーの黒木涼が長門湯本に足を踏み入れたのは2024年3月。
「移住直後から地域の人の熱量と温かさに心を打たれました。地域の方に昔の写真を持ってきてもらって話を聞いたり、地域の伝統的な踊りに参加したり、屋台を出店したりしました」
「移住してすぐ、地域の方から“わかめ刈りに行こう”と誘われたんです。海に行って一緒に作業しながら、“めかぶはわかめの根元の部分なんだよ”と教わり衝撃でした。」
黒木は新参者からまちの一員になっていく実感が、日々の小さな出来事の積み重ねから生まれていったのだ。

Staple社の理念は、「風を起こし、土を育て、豊かな風土を未来につなぐ」。外からの新しい風(Staple)と、その土地に根づく土(文化と人)が混ざり合い、未来へと受け継がれる「風土」を育てるという考え方だ。
「招かれる立場ではなく、まちの一員として関わりたい。ホテル立ち上げ前から地域の声に耳を傾けたことで、たくさんのヒントをもらい、SOILは“街の皆さんと一緒に作ったホテル”になりました」
こうした思想はSOILの設計にも反映されている。館内にはあえて大浴場をつくらず、宿泊者は近隣の「恩湯」で“地域の湯に浸かる”導線が意図的に組み込まれている。
1階の飲食店「TARU」は宿泊者以外にも門戸を開き、地域のカフェ、萩焼工房、ギャラリーなど、まちなかの小さな拠点を巡るきっかけをつくっている。観光と生活の境界がゆるやかに溶けていくような設計だ。「SOILに泊まって終わりではなく、“長門湯本を好きになって帰る”滞在をつくりたい。」黒木のこの言葉には、宿泊施設を超えて“まち全体を語る存在”としてのSOILの姿勢が凝縮されている。
そして、黒木の目線は常に宿の外へと向いている。宿の成功はゴールではなく、地域全体で一緒につくることのほうが大事なのだと改めて気づかされる。


