サイエンス

2026.01.14 17:00

ゾウが仲間の死に際して見せる、長期にわたる「複雑な行動」

Getty Images

ゾウがすべての骨に同じやりかたで接していたのなら、単に目新しい物や匂いに反応しているだけだと主張できたかもしれない。だが、ゾウの骨に限って関心を示したことからすると、ゾウが遺骸を、自分と同じ種に属するものとして分類する能力を備えており、その結果として、ほかの骨に対するのとは異なる反応をしていることは明白だ。

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生物学的な観点から見ると、この知見は、ゾウが社会的アイデンティティと記憶に関係する高度な認知処理能力を持つことを示している。

象の骨(Shutterstock.com)
象の骨(Shutterstock.com)

ゾウの社会脳

『Elephants and Ethics』に収録されている研究で述べられているように、ゾウは、陸生動物のなかでは地球上屈指の大きくて複雑な脳を持つ。とりわけ、記憶と情動の処理にかかわる側頭葉が発達している。また、並外れて大きな海馬も備えている。海馬は、長期記憶と空間ナビゲーションにかかわる領域だ。

こうした神経学的構造は、行動生態学者が昔からゾウ社会で観察してきた、複数世代にまたがる家族の深い関係を支えている。群れのリーダーである年長のメス(家長)は、数十年分にわたる生態学的・社会的知識を蓄えている。子ゾウは数年のあいだ、母親と「アロマザー(allomother:子の世話を担う、母親以外の年長のメス)」に守られて暮らす。

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これほど複雑に結びついた家族システムでは、個体の死は「なんでもない出来事」ではない。その死は、知識や情報、保護、社会的安定の喪失を意味する。そして、進化の観点から見ると、死への反応は、ゾウが喪失の後に社会的絆を調整し直し、ストレスを和らげ、集団の結びつきを維持するのに役立つかもしれない。

ゾウ研究のなかでもひときわ心を揺さぶる観察所見は、リーダーである年長のメス、群れの最長老で最も賢いメスの死後に見られた親族の行動に関するものだ。『Applied Animal Behaviour Science』で2006年に発表された論文によると、ケニアのゾウ保護区で1カ月にわたって実施されたフィールド研究では、死んだリーダーのそばに親族のメンバーが何時間も、あるいは何日もとどまる様子が観察された。

リーダーが死ぬ前日には、リーダーが衰弱しているのを目にした親族たちがひどく取り乱し、しきりに鳴き声を上げていた。リーダーの体を持ち上げ、また立たせようと試みたほどだ。翌日、リーダーが死んだときには、過去の研究でも見られたように、親族たちが鼻や足で遺骸にやさしく触れた。

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翻訳=梅田智世/ガリレオ

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