匿名取引を行うために使われるプライバシー重視の暗号資産Zcash(ジーキャッシュ)は、2025年に価値が600%超上昇し、今年最大の上昇率となった。デジタル資産にとって値動きの荒い1年だったにもかかわらず、投資家にひそかに大きなリターンをもたらした。
Zcashは2025年の年初に58ドル(約9079円)で取引されていたが、その後急騰した。9月以降の価格急騰で上昇率は900%超となり、価格は400ドル(約6万2616円)に達した。
1月初めにZcashへ5ドル(約783円)投資していれば、現在は35ドル(約5479円)の価値になっている。主要暗号資産であるビットコイン(Bitcoin)やイーサリアム(Ethereum)のみならず、ナスダック総合指数(NASDAQ)やS&P500といった株価指数すら上回るパフォーマンスだ。
取引のプライバシーが強化されていることから「暗号化されたビットコイン」と呼ばれるZcashは、ビットコインの元のコードを改変して作られた。高度な暗号技術により、送信者・受信者・金額など取引の詳細を任意で秘匿できる追加のセキュリティ機能が組み込まれている。
Zcashのブロックチェーンは、発行上限2100万トークン、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)方式のマイニング(計算作業で取引を承認する仕組み)、そして4年ごとに報酬が半減する制度といった、ビットコインの特徴を受け継いでいる。
Zcashは、トークンのプロトコルとブロックチェーンを維持する非営利組織Zcash Foundationによって運営されている。
Zcashを立ち上げたのは誰か
Zcashは、ビットコインのブロックチェーンを通じて取引が追跡できてしまう仕組みにセキュリティ上の懸念があると考える、ズーコ・ウィルコックス・オハーン率いる学術研究者のグループによって始められた。もともとはZerocash(ゼロキャッシュ)と呼ばれていた。「Zcashプロトコル仕様書(Zcash Protocol Specification)」によれば、Zcashは当事者間の取引を隠すための専用のセキュリティ・プロトコルを用いており、利用者は任意でオプトアウトして完全な透明性を選ぶこともできる(ホワイトペーパーはこちら)。
なぜZcashは2025年に急騰したのか
Zcashは2016年のローンチ時に4000ドル(約62万6160円)で取引された。しかしその後はその価格水準を大きく下回って推移し、2025年になって再び勢いを取り戻し、11月には高値734ドル(約11万4900円)をつけた。Galaxy Digitalのリサーチ・アナリストであるウィル・オーウェンズによれば、Zcashの2025年の上昇は、ビットコインが広く受け入れられるようになったことや、取引におけるプライバシー需要など、複数の要因に起因するという。
オーウェンズは「Zcashの上昇は、プライバシーは権利だという考え方と、透明性は規制上の必要性だという考え方の間にある古い哲学的対立を再び浮かび上がらせました。これは、プロジェクトが長年にわたり両立させようとしてきた難題です」と述べた。
2025年8月に、かつて最大のプライバシー特化型ブロックチェーンだったMonero(モネロ)で重大な脆弱性悪用が発生したことも、より安全な代替を求める利用者の関心をZcashへ向ける要因となった。11月には、Zcashは初めて時価総額でMoneroを上回り、100億ドル(約1兆5654億円)超に達した。
プライバシー暗号資産は合法か
規制当局は、取引情報を暗号化する暗号資産プラットフォームをしばしば精査する。法執行当局がトークンの流れを追跡しにくくなるためである。米国では依然プライバシー・トークンに関する規制がなく、法的にはグレーゾーンにある。
ブロックチェーン分析企業Chainalysisの分析によれば、プライバシー・コインや暗号資産ミキサー(複数の利用者のトークンをプールし、混ぜ合わせる仕組み)の利用者の一定割合はサイバー犯罪者である。11月、米証券取引委員会(SEC)は、暗号資産ミキシング・サービスSamourai Walletの共同創業者に対し、違法なダークウェブ取引からの2億ドル(約313億円)超の資金洗浄を助けたとして、禁錮4年を言い渡した。



