ビジネス

2025.12.28 12:00

マスクだけ「別の起業家ゲーム」をしている──スピードが武器、複数を同時実行、重心はStarlink

Chesnot/Getty Images

SpaceXが技術を磨き、Starlinkが価値を取り込む

マスクのポートフォリオにおける最も重要な区別は、技術的実現手段と経済的エンジンの違いだ。

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SpaceXはまず最も困難な制約を解決した。再使用性にこだわることで、SpaceXは打ち上げコストを劇的に引き下げ、大規模な軌道インフラを経済的に実現可能なものにした。SpaceXはアクセスを創出したのである。

Starlinkは、そのアクセスを継続的な経済力に転換する。

Starlinkは単なるインターネットサービスではない。通信業界のほぼすべてのレガシー制約を迂回する、垂直統合型でグローバルに拡張可能な通信ネットワークである。光ファイバーの敷設工事は不要。通信塔の交渉も不要。地域独占企業への依存も不要。地理に紐づいた段階的なインフラコストも不要。

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ネットワークを軌道上に配置することで、通信事業は不動産と規制の問題ではなく、製造とソフトウェアの問題になる。

歴史的な類比:鉄道、電力、そしてインフラ支配

近代史における最大の富は、製品によって築かれたのではない。インフラによって築かれたのである。

鉄道は最初の全国規模のネットワークを創出し、商取引がどこへ流れ、どのようなコストで行われるかを決定した。電力はそれが触れるあらゆる産業を変革し、日常生活に埋め込まれた目に見えない公益インフラとなった。これらのシステムを支配した者は、単に市場内で競争したのではなく、市場そのものを形成したのだ。

Starlinkは、この歴史的系譜にぴったりと当てはまる。

鉄道と同様に、それまでアクセス不可能だった地域を接続し、距離を縮める。電力と同様に、普及すればするほど価値が高まる。いったん組み込まれれば、それは選択肢ではなくなる。基盤となるのだ。

これら初期のインフラの波を支配した起業家たちが勝利したのは、ブランディングやタイミングだけの理由ではない。インフラは数十年にわたって力、重要性、価格決定力において複利的に成長するから勝利したのである。

Starlinkは同じ特性を持つが、それがグローバル規模で、デジタル速度で展開されている。

なぜStarlinkが重心なのか

通信業界は世界最大かつ最も収益性の高い産業の1つであるが、同時に最も非効率な産業の1つでもある。レガシー事業者は埋没コスト、断片化した規制、遅く段階的な拡張経済に縛られている。

Starlinkはそのモデルを逆転させる。

衛星群がいったん配備されれば、限界的な拡張コストはゼロに近づく。同じネットワークが、地方の消費者、航空会社、船団、企業、政府、軍、災害対応機関にサービスを提供する。カバレッジは設計上グローバルである。Starlinkが唯一の選択肢である場所では、スイッチングコストが高い。価格決定力は規模とともに向上する。

最も重要なのは、通信が継続的収益を生むということである。ハードウェアサイクルや打ち上げサービスとは異なり、Starlinkは継続的にキャッシュフローを積み上げる。この継続的でインフラ的な収益こそが、マスクの長期的な富の軌道を根本的に変えるものなのだ。

既存勢が逃れられない非対称競争

レガシー通信企業は、周波数ライセンス、規制当局の取り込み、インフラ賃料の最適化を行う。Starlinkは、軌道力学、大量生産、ソフトウェアアップデートの最適化を行う。

この非対称性は決定的である。

従来の既存企業は、すでに費やした数十年分の資本と、解消できない政治プロセスに制約されている。Starlinkは主に物理法則と製造規模に制約されているが、これらはいずれもマスクが繰り返し優位性を示してきた分野である。

これは競争上の小競り合いではない。構造的な置き換えなのだ。

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翻訳=酒匂寛

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