AI・デジタル技術が加速度的に進化する今、企業の持続的成長には「テクノロジーの活用」と「人材戦略」の両輪が不可欠だ。「人」中心の経営、ピープルビジネスを展開する日本マクドナルドでは、どのようなテクノロジー進化が起きているのか。外資・日系・スタートアップを横断して採用支援を手掛けるエンワールド・ジャパン代表取締役社長・山本裕介氏が、日本マクドナルドCTOの杉林隆彦氏と、ナショナルマーケティング部上席部長の藤本靖氏の話を聞き、これからの時代に求められる「人とテクノロジーの融合」について探っていく。
出演者
杉林 隆彦(日本マクドナルド テクノロジー本部 執行役員 CTO)
藤本 靖(日本マクドナルド マーケティング本部 ナショナルマーケティング 部 上席部長)
山本 裕介(エンワールド・ジャパン 代表取締役社長)
部門を超えた連携が生む、革新的なデジタル体験
山本:日本マクドナルドでは、デジタルマーケティング部門とテクノロジー部門が密に連携し、店舗からモバイルオーダー、デリバリーサービスまでさまざまなデジタルタッチポイントを生み出していると聞いています。それぞれの組織の役割を教えていただけますか。
藤本:私はナショナルマーケティング部内のデジタルマーケティング領域を担当しています。追求しているのは「デジタルを通じた顧客体験の向上、ブランド体験全体の進化」です。
店舗では、モバイルで注文できる「モバイルオーダー」、店頭でタッチパネル注文ができる「セルフオーダーキオスク」、「デジタルクーポン」、ポイントを貯めて特典と交換できる「Myマクドナルド リワード」といったサービスを次々ローンチしてきました。店舗外ではデリバリーサービスもあります。こうした施策の企画立案から、社内外のステークホルダーを巻き込んだ課題解決、ローンチ後の結果まで、すべてが私の責任範囲です。
杉林:藤本からの「こういうことがやりたい」という思いを受け、どう仕組みに落とし込んでいくかを考えるのがテクノロジー本部の役割です。日本マクドナルドが目指しているのは、お客様一人ひとりのニーズに合わせたコミュニケーションを行う「One to Oneマーケティング」。そのための仕組みづくりなど、デジタルサービスの裏の部分を一緒になって考えています。
藤本:どちらが主導するかといった議論ではなく、「会社のビジネスをどう成長させるか」を軸に、常に一緒になって考えています。新しい取り組みを進める際には、ギリギリのところまで膝を突き合わせて、「ああでもない、こうでもない」と議論を重ねながら最適解を探っています。テクノロジー検証を行うテストラボ施設にも一緒に入り、テクノロジー面で制約があれば店舗オペレーションでどうカバーできるだろうかと意見を出し合い、共に次のアクションに落とし込んでいます。
山本:部門を超えた連携が機能している要因とは、どんなところにあるのでしょうか。
藤本:新たなプロジェクトが組織横断で立ち上がることが多く、クロスファンクショナルな動き方が会社のカルチャーとして根づいています。
私たちが手掛けているのはレストランビジネスです。店舗でのお客様体験、クルー(アルバイトスタッフ)の体験の質を支えることがビジネスの根幹にある。店舗のために、お客様のために何をするかという視点は、部門にかかわらず従業員全員が共通して持っています。オペレーション部門や財務部門などあらゆる部署と連携しなければ、店舗で生じる多様な課題には対応できません。
杉林:私は中途で当社に入りちょうど1年ですが、どの部署でも「このサービスをどう作れば、お客様にとって使いやすくなるか」という視点が明確だと実感しています。所属部署や自分の業務範囲に関係なく、「こうすればサービス提供の時間が縮められるんじゃないか」と常にお客様起点。それぞれ専門領域を持ちながら同じ課題を見るからこそ、新しい発想が生まれ、サービスが良くなっていくのだと思います。
藤本:最近では、店舗にセルフオーダーキオスク(タッチパネル式注文端末)が導入されるケースも増えていますが、私たちは、すべてのタッチポイントでお客様が同じ体験を得られることをゴールにしています。たとえば、モバイルオーダーではクーポンが利用できますが、その体験はセルフオーダーでも当たり前に再現されるべきです。そのためには、アプリ内のクーポンをセルフオーダーキオスクでもスムーズに読み取れる仕組みが必要です。
どうすればお客様がストレスなくスキャンでき、より簡単に、よりスピーディーに、安心して使えるか。こうした課題について、テクノロジー本部と議論を重ね、アプリ側のインターフェースとセルフオーダーキオスクの仕様を両方から調整してきました。その結果、今ではセルフオーダーでもクーポンが当たり前に利用できるようになりました。クーポンの一例をとっても、デジタルとテクノロジー本部が連携しながら、より良いユーザー体験を形にしてきたと言えると思います。
他にも、数年前にモバイルオーダーを導入した際は、テクノロジーやマーケティングの連携だけでなく、店舗レイアウトや投資計画まで含めた大きな改革が必要でした。単にモバイルオーダーという仕組みを導入するだけでは、店舗のオペレーションが追いつかず、結果的にサービススピードの低下に繋がり、お客様にご不便をおかけしてしまうこともあるからです。
このように、新たなデジタル施策を店舗に導入する際は、お客様の動線がどう変わるのかを想定し、店舗レイアウトの変更までトータルで考える必要があります。モバイルオーダーの仕組みをただ入れるだけではなく、カウンターで注文するお客様とモバイルオーダーのお客様が商品をピックアップする際に混乱が生じないよう、マクドナルドシステム全体で設計を考え施策導入を進めることが重要でした。
年間14億人にインパクトを与えるデジタル人材
山本:一般的な“マーケティング部門”が見る範囲を優に超えて、お客様のより良いユーザー体験を作り込む姿勢が徹底されていますね。
エンワールド・ジャパンでは、日本マクドナルドの採用活動を人材紹介のみならずRPO(採用代行)としても長年にわたり支援させていただいていますが、どんな人が必要なのかを深堀りし、ともに議論しながら一緒に人材要件を作っていくコンサルタント的なアプローチを大事にしてきました。
「デジタル人材」と一言で言っても、組織カルチャーを理解した上で、具体的な業務内容に落とし込んで見ていかなければ、どんな経験スキルを持った人が最適なのかがわかりません。日本マクドナルドでこそ得られる働き甲斐をどう伝えるかも、加熱するデジタル人材採用においては重要です。
藤本:そうですね。採用面接でよく伝えているのは「多くの人の日常の体験を変えられる可能性を持った会社だ」ということです。
国内で3,000店舗以上を展開し、年間14億人が来客、22万人のクルーが働く規模感と、それゆえの影響力の大きさが当社で働く面白さの一つです。モバイルアプリを例に挙げれば、毎月利用しているマンスリーアクティブユーザー(MAU)数は2,700万です。新たなデジタル施策を導入すればメディアでも取り上げられることが多く、店舗サービスにおける変革の一例になります。
杉林:当社はグローバル企業として見られることが多いのですが、日本マクドナルドは日本で誕生し、国内で単独上場している会社です。日本の店舗やお客様にとってメリットのある施策は私たちの判断でどんどん取り入れています。日本での意思決定が尊重されながらも、グローバルで進めている好事例を選び取っていける立場であり、その自由度もまた当社の魅力だと思います。
また、マクドナルドは一つの山を登り切っても、次の山が現れるような環境です。挑戦は続きますが、その分良い緊張感もあり、大きな達成感も得られます。もちろん、時にうまくいかないこともありますが、そこで人生が終わるわけではありません。むしろ“どう巻き返すか”まで考えて取り組める環境がある。それ自体が大きな魅力だと思っています。
大切なのは、チャレンジできる環境があり、チャレンジした結果に対してさらに再チャレンジできることです。成功か失敗かではなく、挑戦したその先に何があるかを確かめに行ける文化。そうしたカルチャーを許容できることこそが、組織にとって非常に重要だと感じています。
山本:テクノロジーがこれだけ日常生活に入り込んでいる今、テクノロジーと人が融合する上で、「人」が持つべき価値とは何だとお考えですか。
杉林:物事をよくしていこう、そのためにテクノロジーをどう使っていこうかと考えるマインドセットは欠かせません。テクノロジーは効率化や省人化の文脈で使われやすいですが、そこで余分に生まれた時間をお客様へのホスピタリティのためにどう活用するかが大事でしょう。デジタル化して無人店舗を作ろうという発想とは真逆なんです。
当社では、これまでのキャリアや専門分野にかかわらず、入社後は全員が数週間以上の店舗研修を経験します。それは、店舗こそが私たちのビジネスの原点であり、お客様の体験が生まれる場所だと考えているからです。
実際に店舗で働いてみると、「お客様の店舗体験をより良くすること」が何よりも大切な仕事であることを実感します。忙しい時間帯が落ち着いたときに「店内清掃にもう少し力を入れてみよう」「お客様への声掛けを増やしてみよう」といった一つひとつの行動が積み重なり、お客様へのブランド体験価値を高めていきます。
テクノロジーはあくまでも一つの手段。現場の肌感覚がなければ、高度なツールを導入すること自体が目的となり、働くクルーもサービスを受けるお客様も幸せになれません。
藤本:デジタルのバックグラウンドを持つ人の中には、どうしてもデジタルの領域だけに意識が集中してしまうケースもあります。もちろんPDCAを回しながら改善を続けることは重要ですが、それ以上に必要なのは、“お客様や店舗の声を自ら積極的に取りに行く姿勢”だと思っています。その声をしっかり理解し、現実の施策に落とし込めるかどうかが重要です。そのために複数部署の多様なバックグラウンドを持った人とコミュニケーションを取っていけること、そして多様なステークホルダーを巻き込み推進していけることが、テクノロジーを活用する“人”にしか生み出せない価値だと思っています。
山本:エンワールド・ジャパンでは、外資系から日系企業、スタートアップまであらゆる規模感、カルチャーの組織をカバーし、採用支援を行ってきました。従来のように「外資系は実力主義」「日系企業は年功序列」などの違いはなくなっており、外資も日系もスタートアップも、求職者はよりフラットに見始めています。これからの日本企業がグローバル競争の中で持続的な成長を遂げるために、「人を雇うこと」の意義はどう変化していくと思いますか。
藤本:数年前まで、デジタル人材採用では、特定のツールや専門スキルにフォーカスした採用ニーズが強い時期もありました。しかし今はどんどん自動化され、人がタッチしなくても動かせるまでになっている。私たち“人”に求められるのは、「このテクノロジーをなぜ導入するのか」をきちんと定義し、実行へと推進していく力になっていきます。
当社では、店舗や社内で生まれる数ある課題に優先順位をつけ、「この課題をこう改善するために何を変えていくか」を言語化していくことが不可欠です。スキルがあるから雇うのではなく、数あるテクノロジーの中から選び取り、その目的と理由を明確にしながら複数のステークホルダーを巻き込む力こそが、“人”に課される役割になっていくのではないでしょうか。
山本:数年後の未来さえ予測できない今の時代、キャリア形成において自身が持つ経験やスキルを生かし、「どう社会にインパクトをもたらしたいか」という視点がより重要になっていきます。より良い世の中を作っていくことに価値を見出している、そんな方の活躍をますます支援していきたいと、お二人のお話を聞いて、強く感じました。本日は貴重なお話ありがとうございました。
エンワールド・ジャパン
https://www.enworld.com/
すぎばやし・たかひこ◎日本マクドナルド 執行役員/VP,CTO。大手通信会社や外資系ファッション・ラグジュアリーブランドでシステム統括、海外事業、M&Aを経験。2024年に起業し、2025年1月より現職にてグローバル規模でのIT・デジタル戦略、セキュリティ強化を牽引。
ふじもと・やすし◎日本マクドナルド マーケティング本部 ナショナルマーケティング部 上席部長。2006年日本マクドナルド入社後、2016年より外資系IT企業にてデジタル領域を経験し、2019年に日本マクドナルドへ復帰。2025年より現職。
やまもと・ゆうすけ◎エンワールド・ジャパン 代表取締役社長。広告代理店勤務を経てTwitter(現X)日本進出の責任者を務めた後、グーグル合同会社でブランドマーケティング統括部長などを歴任。2025年8月より現職。



