サイエンス

2026.01.04 18:00

頭部を失ったプラナリア、なぜ再生時に「記憶まで復活」できるのか

プラナリア(Shutterstock.com)

プラナリア(Shutterstock.com)

ある朝、目覚めたら脳がなくなっていて、自分が何者かわからなくなっている事態を想像してみてほしい。その後の数日間、無意識状態でいるうちに、特に何もしなくても脳が成長して、記憶も取り戻すようになる。SFのように聞こえると思うが、プラナリアにとってはこれが現実だ。

淡水に住むこの小さな無脊椎動物は、驚異的な再生能力を持っている。さらにその力は、記憶が生物の体内のどこに保存されているのかについて、生物学者に再考させている。

死をあざ笑うプラナリア

プラナリアは扁形動物門に属し、淡水の小川で、石の下を滑るように移動する小さな生き物だ。しかし、その小ささとは裏腹に、研究機関では格段に重要な存在となっている。他のほとんどの動物にとっては、失ったら死を意味するような身体の部位を再生する、比類なき能力を持っているからだ。

2012年に学術誌『PLOS Computational Biology』に掲載された研究結果によると、プラナリアは、体全体の279分の1の部位さえあれば、完全に自己再生できることが判明した。当然ながらプラナリアは、この能力だけでも生物学の教科書で大きく取り上げられている。

自然に浮かんでくる疑問は、これほど単純な動物が、体のごく小さな断片から、完全な脳をはじめとするその他の複雑な器官を再生できるのはなぜか、というものだ。その答えは、ネオブラスト(neoblast:新生細胞)と呼ばれる、プラナリアの驚くべき幹細胞群にある。ネオブラストは、成体の多能性幹細胞であり、ほぼあらゆる細胞タイプに分化できる。より具体的にいうと、プラナリアの細胞の最大30%がネオブラストだ。

『Development Genes and Evolution』に掲載された、プラナリアの幹細胞システムに関する詳細なレビュー論文は、これらのネオブラストが再生の原動力だと強調している。つまり、プラナリアが傷付くと、ネオブラストが増殖し、神経組織であれ、筋肉であれ、腸管内壁であれ、感覚器官であれ、失われた構造を再構築するために必要な無数の細胞タイプへと分化する。そして、再生作業は驚異的な精度で成し遂げられる。

しかし、こうした器官の再生は、プラナリアを驚異的な存在にしている理由の半分でしかない――あとの半分は、その記憶だ。

2013年に『Journal of Experimental Biology』オンライン版で発表された実験において、研究者らは、プラナリアの一種であるナミウズムシ(学名:Dugesia japonica)を訓練して、例えば、凹凸のある表面の感触を、照明のある場所での餌と結びつけるなど、特定の環境因子と好ましい結果を関連付けるよう仕向けた。

その後、ナミウズムシの頭を外科的に切り取り、文字通り、脳のない状態を作り出した。

研究者の予測通り、ナミウズムシは2週間ほどで頭を再生できた。しかし、ほとんど誰も予想していなかったのは、同じナミウズムシが、課題を簡単に復習させただけで、未経験のナミウズムシよりも速く、以前に条件付けられた行動を再獲得できたことだ。つまり、ナミウズムシは脳全体を再生したにもかかわらず、少なくとも以前に形成した記憶の痕跡を保持していたことになる。

記憶の保持が、単なる偶然ではなかったことは特筆に値する。実際、研究者による定量的で自動化された追跡調査では、頭部切断前に習熟していたナミウズムシは、再試験において、対照群よりも速く条件付け反応を再獲得したことが示されている。

この発見も驚くべきものだが、この発見の意味することは、それと同じくらい驚くべきものだ。すなわち、扁形動物の記憶が、何らかの形で、脳以外の組織(あるいは、神経系全体の外側)にコード化されている、ということが示唆されるのだ。

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翻訳=藤原聡美/ガリレオ

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