「イノベーション」「シナジー」「サステナブル」。どれも重要で、正しい言葉です。しかし、聞き手の頭の中には、雲のようにフワフワとした言葉が浮かんでいるだけで、具体的な行動のイメージは一切湧いてきません。これでは、せっかくの高い視座からのメッセージも、ただの「意識の高い、他人ごと」として聞き流されてしまいます。
【説明がうまい人】
「これからの時代、我々はもっと大胆に変わっていく必要があります。一言で言うと、『部署の壁を壊して、新しい実験をどんどんやっていこう』ということです。
例えば、今まで営業部だけで進めていた企画会議に、来週から開発部の山田さんにも参加してもらうのはどうでしょう。営業の視点と開発の視点が組み合わさることで、我々だけでは思いつかないような面白いシナジーが起きるかもしれません」
いかがでしょうか。後者の説明は、「シナジー」といった抽象的な言葉を使いつつも、「営業部の会議に、開発部の山田さんが加わる」という、誰の目にも見える具体的なアクションに落とし込まれています。
説明がうまい人は「抽象」と「具体」を自在に行き来
説明がうまい人は、抽象的な理念(空からの視点)と、具体的な行動(地上の視点)を、自由自在に行き来します。そして、聞き手が道に迷わないように、「例えば」という名の、親切なハシゴを必ず用意しておくのです。
なぜ、具体例がそれほどまでに重要なのでしょうか。それは、聞き手は、言葉を「文字」としてではなく、「映像」として理解するからです。その結果、具体例を付け足したほうが記憶に残りやすいのです。情報が増えるにもかかわらずです。
これは、認知心理学の「二重符号化理論」で裏付けされています。この理論では、情報は言語システムとイメージシステムの二つの経路で処理されるとされています(Paivio, 1986)。具体的な言葉は、聞き手の頭の中に「映像(イメージ)」を喚起させやすく、言語とイメージの両方で情報が処理されるため、抽象的な言葉よりも格段に記憶に定着しやすいのです。
抽象的な言葉は、いわば「図面」です。そこには構造や本質が描かれていますが、それだけでは理解させることができません。一方で、具体的なエピソードや事例は、その設計図に色を塗り、命を吹き込むための「絵の具」です。聞き手は、絵の具によってはじめて、頭の中に具体的な「絵」を描くことができるのです。
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