テクノロジーの進展、地政学的変化、生産年齢人口の減少、新たな働き方によって、仕事は劇的に変化している。そうしたなか、アデコは社会課題を解決するとともに、「未来対応型」の働き手を増やすことを目指す「2030成長戦略」を策定した。同社代表取締役社長の平野健二に「2030成長戦略」の狙いと、「未来対応型人財」の重要性について話を聞いた。
スイス・チューリッヒに本社を置く総合人財サービス企業であるAdecco Groupは、世界60カ国以上で事業を展開する人財サービスのグローバルリーダーだ。その日本における中核法人であるアデコは、人財派遣、アウトソーシング/BPO、人財紹介、HRコンサルティングといった幅広いサービスを提供している。
これからの日本に必要な「未来対応型人財」とは
Adecco Groupでは毎年、グローバル調査「Global Workforce of the Future」を実施している。6回目となる2025年版では、「人間らしい働き方:AI時代を生き抜くには」をテーマに、日本を含む世界31カ国の3万7,500人の働き手を対象に調査を実施した。
その結果から見えてきたのは、日本は世界と比較して、AIの活用に極めて消極的ということだった。「自社が今後12カ月以内にAIエージェントを業務フローに組み込む」と予想した割合は、世界の働き手が76%だったのに対し、日本の働き手は35%と大きく離されているのだ。その要因をアデコ代表取締役社長の平野健二は、こう分析する。
「今回の調査から3つの要因が見えてきました。まずは『AIに対する信頼度の低さ』です。AIに対する信頼度は、世界の平均が10点満点中4.5点だったのに対し、日本はわずか0.9点でした。2つ目は『仕事に対する目的意識の低さ』です。スキル開発をより主体的に進めたいと考えている働き手の割合は、世界の働き手が34%だったのに対し、日本の働き手は14%。目的意識が希薄なため、AIの活用にも消極的になってしまっていると考えられます。また、『経営層のリテラシーの低さ』も明らかになりました。欧米ではリーダーが率先してAI導入をリードしていますが、日本ではリスク回避を必要以上に優先する傾向があります」
こうした現状を変えていくには、時代に対応できる「未来対応型の働き手」を増やすことが必要だと平野は提言する。アデコが定義する「未来対応型の働き手」とは、主体的で適応力が高く、キャリアプランを柔軟に見直すことを厭わない。そのため、積極的にスキルアップを図り、新たなテクノロジーにも柔軟に適応することができる人財だ。
「日本の生産年齢人口は減少が続き、2065年には2,200万人が不足するという試算があります。AIによって代替される仕事も出てくるでしょう。こうした状況のなか、国や企業が持続的に成長していくためには、課題解決に主体的に取り組める『未来対応型』の人財が不可欠です。重要なのは、その仕事を通じてどんなスキルを磨き、どんなキャリアを描きたいのかを自ら考えること。キャリアを主体的に選び、成長を設計できる人こそが、未来を切り開く人財であると言えます」
社会課題の解決を通じて企業としての成長を実現
AIに限らずテクノロジーが進展し、さらには地政学的変化、生産年齢人口の減少もあり、仕事のあり方が劇的に変化している。そうしたなか、アデコは社会課題を通じて、企業としての成長を実現することを目指している。そのために策定したのが、「2030成長戦略」だ。この成長戦略は、5つの重点施策から成り立っている。1つ目は「人財派遣事業の強化」だ。
同社は、個々の価値観と企業文化の相性である「カルチャーフィット」を重視したマッチングに注力しており、この取り組みを今後一段と強化していく考えだ。
「派遣社員が短期間で離職した場合、新しい人財の採用や業務の習熟にも多くのコストと時間がかかってしまいます。それを避けるために、当社では就業開始前にカルチャーフィットを測定してきましたが、今後はこれを就業開始後も行っていきます。そのデータを基に、派遣先企業と派遣社員がより良いコミュニケーションを取れるようにすることで、双方の満足度向上を図ります」
また、AIなどのデジタルスキルの習得をサポートしながら、「人とAIの協働」を促していくと語る。
「人手不足が加速するなか、企業の人財ニーズは増加を続けています。またAIの浸透により、今後はAIスキルをはじめとするデジタル技術を身に付けた人財に対するニーズが飛躍的に高まると考えられます。一方、当社では、AIは万能ではなく、引き続き人が担うべき領域があると捉えています。我々は、今後も人財に寄り添いながら、AIを活用していく領域と人が担うべき領域を整理し、人とAIの協働により価値を創造していきます」
重点施策の2つ目は「アウトソーシング事業の強化」だ。アデコはこれまでにも、官公庁・自治体と民間を問わず、組織がコア業務に注力するためのアウトソーシングサービスを提供し、生産性の向上や業務の効率化、組織の成長をサポートしてきた。アウトソーシング市場は拡大を続けており、アデコはこの領域を注力分社と位置付けて取り組んでいく考えだ。特に地方自治体では人財不足が深刻であり、その課題を同社がもつノウハウで解決したいという。
「人財サービス企業である当社は、人財の供給力を強みに、現在も主要事業の一つとして民間・官公庁・自治体を問わず、多くのアウトソーシング案件を手がけています。官公庁・自治体向けのアウトソーシングでは、今後、政策提言を積極的に行うともに、地域ごとの課題を特定し、その解決策を設計するプロジェクトデザインを進めていきます。民間企業向けでは、テクノロジーと業務改善のノウハウを駆使して業務プロセス全体の変革や効率化していくビジネスプロセスサービスを強化します。コールセンター業務に関しては、AIの活用で業務プロセスを改善する余地が特に大きいと見ています」
3つ目は「外国籍人財向け事業の拡大」だ。アデコは、2022年に特定技能外国人の人財紹介・育成支援事業を開始した。急激な人手不足を補い、日本が持続的な成長を果たしていくためには、外国籍人財の参加が不可欠という。
「多くの企業にとって、人手不足は喫緊の課題です。特に地方では、業績を上げるどころか事業の継続に困難をきたす企業も増えています。当社の外国籍人財向け事業は、人財を紹介するだけでなく、日本語のスピーキング能力の向上や日本語能力試験の合格もサポートしているところに特長があります。また、外国籍人財が地域社会に溶け込み、企業に定着することが重要という考えから、携帯電話の契約や賃貸住宅への入居、お花見などの季節ごとのイベント開催といった生活支援も提供しており、大きな効果が出ています」
4つ目は「技術者派遣事業の強化とリスキリングの推進」だ。日本の雇用・労働市場における課題として、事務系人財の供給過剰とIT・デジタル人財の不足があるという。その需給ギャップを、リスキリングによって解消しようというのだ。
「2030年には事務系人財が120万人の供給過剰となる一方、IT・デジタル人財は170万人不足するという試算があります。当社は技術者派遣事業の強化とリスキリングの推進により、現在事務系の仕事に携わっておる人財がAIをはじめとするデジタル関連技術を身につけ、成長分野へ労働移動できるよう支援していきたいと考えています。これは、『未来対応型の人財』を増やすための取り組みのひとつでもあります」
そして、最後は「地方創生への貢献」だ。アデコがこれまでに培ってきた知見とノウハウを発揮し、自治体における社会課題解決をさまざまな側面から支援していきたいとしている。その支援のひとつが、地方における雇用の創出だ。
「2025年3月に、企業のバックオフィスを運営するためのBPOセンターを沖縄県浦添市に立ち上げました。こういった拠点の開設を、ほかの地域でも計画しています。地域によっては、働き手が希望するようなオフィスでの仕事が少ないなど、ニーズと求人にギャップがあるところがあります。そういったところへ拠点を開設することで、雇用を創出し、地域の活性化に繋げていきたいと考えています」
社会に向けた情報発信のための「未来共創人財プロジェクト」
これらの重点施策により社会課題の解決を目指すアデコは、成長戦略の策定に合わせ、「未来共創人財プロジェクト」を新たに立ち上げた。成長戦略に沿った事業を展開するだけでなく、社会に向けて日本の雇用・労働に関する情報を発信していくことが狙いだという。
「従来の労働力に依存するだけでは、この社会を維持するのは困難であり、多様な人財が活躍できる場をつくっていくことが必要です。それには人財サービスを担う企業として、社会に向けて日本の雇用・労働に関する情報を発信し、警鐘を鳴らし続ける必要があるという考えから、このプロジェクトを立ち上げました」
プロジェクトを推進することで、社会の変革をリードしていきたいと平野は力を込める。
「このプロジェクトを通じて、デジタル人財、外国人財、地方創生人財など、様々な人財が『未来対応型人財』となれるよう支援し、そうした人財が活躍できる環境を企業や社会と共に構築していきます。そうすることで、我々のパーパスである『Making the Future Work for Everyone』の実現を目指します」
アデコ株式会社
https://www.adeccogroup.jp/
ひらの・けんじ◎アデコ株式会社 代表取締役社長。
1978年、栃木県生まれ。2004年、アデコ株式会社入社。営業職として大型案件の獲得やトップセールスの記録といった実績を残し、早い段階からマネジメント業務に従事。支社長、エリア長、事業本部長を経て、2018年に同社執行役員ジェネラル・スタッフィング COOに就任。2022年10月、同社取締役 兼 Adecco Chief Operating Officerに就任。人財派遣事業およびアウトソーシング事業のブランドであるAdeccoの日本における責任者として、様々な新規事業の立ち上げ、事務派遣就労者のリスキリングの推進、アウトソーシング事業の拡大等を指揮する。2024年4月に同社代表取締役社長就任。2021年、ロンドンビジネススクール 修士課程(MSc)修了。



