2025年、世界中で340人以上の新たな「億万長者」が誕生した。その原動力となったのは、過熱する人工知能（AI）ブームと、それを取り巻く関連株の急騰や大型IPO（新規株式公開）だ。だが、単なる株高だけではない。その背景には、トランプ第2次政権の発足という米国の政治的変化もある。富裕層が政権中枢に食い込み、ビジネスと政治がかつてないほど急速に接近・融合する中、彼らの資産規模は爆発的に拡大した。この「ビリオネア・バブル」の象徴にして牽引役となったのが、イーロン・マスクである。
史上最年少のビリオネア記録が次々と更新
10月7日、ニューヨーク証券取引所の親会社は、予測市場スタートアップのPolymarket（ポリマーケット）に対し、評価額90億ドル（約1.4兆円。1ドル＝156円換算）で20億ドル（約3120億円）を投資すると明らかにした。この取引は、創業5年の同社にとって大きな節目となり、27歳の創業者シェーン・コープランを一気に「世界最年少の自力で富を築いたビリオネア」に押し上げた。ただし、その座は3週間も続かなかった。
Mercor共同創業者3人が22歳でビリオネアとなり、女性ビリオネアの最年少記録も更新
なぜなら、同月27日、データラベリングのスタートアップMercor（メルコア）が、評価額100億ドル（約1.6兆円）で複数の有力投資家から資金調達を実施したと発表したからだ。この結果、同社の22歳の共同創業者3人は、コープランよりも5歳若い年齢で史上最年少の自力で富を築いたビリオネアになった。彼らは、2008年に23歳でビリオネアとなったマーク・ザッカーバーグの記録さえも塗り替えた。
最年少の自力で富を築いた女性ビリオネアの座をめぐっても、同様の競争が繰り広げられた。36歳のテイラー・スウィフトは2023年以降、このポジションを維持していた。だが4月、Scale AI（スケールAI）が株式の公開買い付けを発表したことで、当時30歳だった共同創業者ルーシー・グオがその座に浮上した。12月に入ると、ブラジル出身の元バレリーナで29歳のルアナ・ロペス・ララが、その称号を手に入れた。これは、彼女が共同創業した予測市場スタートアップKalshi（カルシ）が新たな資金調達で評価額を110億ドル（約1.7兆円）に跳ね上げたためだ。
富裕層の資産規模が過去最大に――その影響力が政治の中枢にまで及ぶ
2025年は、かつてないスピードで富が創出された。ここ1年間で、340人以上のビリオネアが誕生したが、これは1日にほぼ1人のペースだ。彼らが拠点とする国は、米国や中国、インド、ロシアだけでなく、セントクリストファー・ネイビスやアルバニアなど、世界各地に広がっている。現在のビリオネアの総数は、過去最多の3148人で、5年間で約50％増加した。フォーブスが初めて世界のビリオネアランキングを発表した1987年当時、その数はわずか140人にすぎなかった。
しかも、これら富豪の資産規模は、かつてない水準に達している。世界のビリオネアの総資産は、18兆7000億ドル（約2917.2兆円）と、2020年以降に10兆ドル（約1560兆円）増加し、1人当たりの平均資産も59億ドル（約9204億円）と、当時の40億ドル（約6240億円）を大きく上回る。資産が1000億ドル（約15.6兆円）を超える「センチビリオネア」は過去最多の19人を記録した。6年前にこの水準に達していたのは、アマゾンのジェフ・ベゾスただ1人だった。
