これは、自然淘汰が分子レベルにおいても作用していることをはっきり示した例と言える。つまり、生と死の境界線にあるたんぱく質を見事に微調整しているわけだ。
毒を持つことで得た「進化上のメリット」とは
化学的防御には、捕食者を退けられるメリットがあるが、そのメカニズムは負担も伴う。生理的な耐性と、体内に安全に蓄積するための方法、自らを傷つけないメカニズムが必要となってくるからだ。
ダンバッカーとロバート・C・フライシャーが2001年に発表した研究にもあるように、ズグロモリモズのオレンジと黒の大胆な色使いは、警戒色でもある。極彩色のカエルや、黒と黄色のハチと同じように、毒性があることを知らしめる警告なのだ。ズグロモリモズの毒に一度触れた捕食動物は、近寄らないようになることが、実験と観察の両面で得られたエビデンスで示されている。
注目すべきは、ズアオチメドリ(学名:Ifrita kowaldi)となど、ニューギニアに生息する他の鳥類からも、バトラコトキシンが少量ながら検出されていることだ。ズグロモリモズが、判明している中で最も毒性の強い鳥であることに変わりはないが、捕食動物から身を守るために化学物質を使っている鳥は他にもいるわけだ。
それでも、生物学者の毒性に関する考えを一変させたのはズグロモリモズだ。強力な神経毒が食物網を通過し、分類学的な境界線を越え、どういうわけか、予想もしなかった再利用がされ得ることを証明したのだ。
バトラコトキシンは、次のような分野を研究する上で貴重な手段となっている。
・ナトリウムチャネルの働き
・心臓生理学
・神経伝達
ズグロモリモズが、バトラコトキシンという毒素に耐性を持つメカニズムの解明は今もなお、痛みや麻酔、チャネル病(イオンチャネル遺伝子の異常による先天性疾患)の研究に知見を提供している。しかしより広い視点で見ると、ズグロモリモズは、進化が必ずしも、人間が押しつけたカテゴリーに従うわけではないことを思い出させてくれる。鳥が、ヘビやカエルのように毒性を持ち得ることは、今や学問的に裏付けられているのだ。


